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「あ、章ちゃんや」
部室から、構内のコンビニに向かっている途中、ガラス張りになった中央ホールのエントランスに、ぽつんと佇む小柄な背中を見つけた。
どこかで絵でも描いてたんやろうか。
脇に、キャンバススタンドを抱えている。
「目立ちますね〜、あの格好」
「何柄やねん？服……」
珍しく紅茶のストローを咥えながら、亮ちゃんがあきれたように苦笑した。
「あっは、ヤスかわいいわぁ〜」
となりで手を叩いて笑う大倉。
俺たちはだれもなにも言わずとも、自然と足の方向を変え、中央ホールに近づいていく。
章ちゃんの背中は、ぴくりとも動かずその場にじっと立ち尽くしている。
「ん？なに見てるんやろ？」
「……絵？」
彼が見上げる視線の先に、ある巨大な絵が掲げられていた。
ホールのエントランスでは美術学科の学生たちによる作品展が催されているようで、章ちゃんは、そのなかのその作品を鑑賞しているようだった。
見たこともないほど大きなキャンバス。
膨大な余白、そこにぽつりと描かれた、とうめいな小壜_______裂目のような罅が入っていて_______今にも壊れてしまいそうな。
「……」
その絵の片隅に、刻まれたサインは…………
「章ちゃん！」
ガラス越しに、亮ちゃんが章ちゃんを呼ぶ。
振り向いた章ちゃんは一瞬目をまるくし、それからうれしそうに笑顔を咲かせて、俺たちのほうに歩み寄る。
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「なんやその顔」
食堂でぼんやりとしていたら、すばるにほっぺたを引っ張られた。
「あれか。とうとう別れたか？」
「いや……」
「なんやねん」
訊いてきた割にはあまり関心がなさそうに吐き捨てると、俺の手元を覗きこんでくる。
積み重なる、真っ白な原稿用紙。
「やから言うてるやんけ」
「え？」
「女は芸の肥やしやって」
そう言って、誇らしげに胸を張る彼の手には、綴じられた十枚程のコピー用紙の冊子。
学年と名前が印字された上に、大きめの文字で『軋轢』というタイトルが並べられている。
「〆切、明後日やで」
すばるは、「それまでに降りてくるとええなぁ」とつぶやき、ふらりと席を立って離れていく。
その足がまっすぐに向かった先で、水色のブックカバーの、文庫本に目を落とす少女の横顔が日の光に照らされている。
まぶしそうに眉をしかめる彼を、本から視線を外し、そっと見上げる硝子玉のひとみ。
「…………」
右手の指が、疼いた。
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べに(プロフ) - ココナッツさん» ココナッツさーん！ありがとうございます！うれしいです！がんがん進めていきます笑 明るくない話ですが楽しんでいただけるようがんばりますね！^ ^ (2018年2月1日 11時) (
レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
ココナッツ(プロフ) - べにさん！待ってました！！新作の世界観に、はぁもうまたため息…やっぱり好きです！！続きを楽しみにしています！ (2018年2月1日 1時) (レス) id: d0c3580366 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：べに
| 作成日時：2018年1月31日 16時
