【短編集】you and me【吉沢亮】

Immutable ページ18

早く帰りたい…

窓の外の景色の流れるスピードが遅くてうんざりする。
ガタン、と電車に揺られながら、あくびを噛み殺していた。


いつも逃げるように出る会社は相変わらず辛いし、上司の与える不快な気持ちはずっと残っているし。

また明日も早く起きなきゃ…

はぁ、と何度もため息が出る。


駅に着いてドアが開くと、仕事帰りの人たちが次々流れ込んでくる。
空いていた車内はあっという間に満員電車だ。

座っている私の前にも人影が落ちて、立つ人も大変だな、と同情する。
目の前に立つ、もう見飽きたサラリーマンの革靴と、黒いスーツをぼんやり眺めていた。



「…A？」



ぼそっと、そんな声が目の前からする。

はっとして顔を上げると、そこには高校時代、私がマネージャーをしていたバスケ部の先輩がいた。



『…吉沢先輩！お久しぶりです』



驚いてすぐ言葉が出なかった。
彼は嬉しそうにニコニコ笑っている。

変わらない笑顔だな…

昔と同じで、一目見ただけで誰もが惹き付けられる表情。



『先輩、私のこと覚えてたんですね』


「当たり前だよ。かわいい後輩なんだから」


『そんなこと言ってくれるの吉沢先輩だけです…』



毎日忙しくて、友達と連絡なんて随分取っていない。

全く潤いのない自分の生活に、とっくに嫌気がさしている。



「今度飲みに行こうよ。土曜とかどう？」



突然の誘いに驚いた。この一瞬で二回目。

でも断れるはずもなく、はい、と返事をしてしまうのだった。

○→←再会、再開

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