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ここに来てから数日。
信じられないことばかりが続いて、でもそれがここでは日常だ。
それは信じられないほど簡単に僕の体に馴染んで、もう元の生活に戻ることは不可能かもしれない。
……果たして、僕は元の生活に戻りたいのだろうか。
「……戻りたい、とは思わない……かな?」
心の声が喉を突き破って外に零れる。
だけどその声を拾う者はいない。
戻りたいわけではないけれど、ここに執着する理由も今のところはない。
思えば、僕は随分小さな世界で生きて来たんだなと思う。
・
・
トン、トン、トン、と音が聞こえた気がした。
その音でハッとして意識を覚醒させる。
いつの間にか寝てしまっていたんだと気づくまでに時間はかからない。
トン、トン、トン、とまた音が聞こえる。
音の方を振り返るとテラスの入り口に人影が見える。
……こんな真夜中に?
ゾッと鳥肌が立つのが分かる。
「……どうぞ」
震える声で、真夜中の客人を招き入れる。
ガラスの扉はゆっくりと開いてそっと人影が中に入って来る。
この敷地内にはクラウド卿の招待状がない限り入ることはできない。
それを覚えていたから不審者ではないことだけが唯一の便りだった。
「こんばんは。こんな夜分に奇遇ですね」
「……え、っと……?」
僕の前に現れたのは知らない男性。
ニコリと優しく笑う顔に、幾らか安堵する。
「君が、ブーゲンビリアの【呪い】だね」
「あ……ブーゲンビリア国より参りました、知念侑李と申します」
「ああ!聞いたことがある名前だと思ったら、君はあの貴族の家の!」
「え?僕のことをご存知なのですか?」
僕の問いかけに彼はニコリと笑う。
「もちろん。でも会うのは初めましてですね」
「……?」
「初めまして、ストレチア国の【呪い】の有岡大貴です」
……ストレチア国の【呪い】?
ついさっき、伊野ちゃんと食堂で話していた彼?
「……え」
驚きが声に漏れる。
彼の名前をもう一度心の中で復唱したとき、ある出来事が頭に思い浮かんだ。
「有岡大貴さん……って、まさかあの時の」
「ふふ、あの時は大変お世話になりました」
年に一度の誕生日パーティーのための特別な衣服を仕立ててくださった方の名前と同じだ。
「あの時のお洋服、とっても評判が良かったんです!」
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作者名:天凪 | 作成日時:2022年6月21日 23時