【HSJ】Happily ever After…？ (ページ43)

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「もうあと少しすれば目覚めるはずだから、きっとすぐに会えるはずだよ」

「……だったらいいな」

「どんな人か気になるのかな？」

「気にならないと言えば嘘になっちゃうね」

【呪い】は人それぞれで、その能力は【呪い】が開花したときの感情に強く揺さぶられる。
だから光さんはこの世界で一番の、誰にも負けない力を手に入れた。
皮肉にも、人間に裏切られたが悪魔は代償さえ払えば絶対に裏切らない。
故に、彼は鏡写しの間で今もその力を使役できる。

「大ちゃんは気さくな人だから心配しなくていいよ。ただ、その【呪い】の特性上、かなり大変な思いはしているけれどね」

「【呪い】は、開花したときの状況に影響するけれど……それなら裕翔は、どうして歳を取らなくなったんだろう……」

「ふふ、それも疑問に思うよね」

「……とは言っても、【呪い】が開花した時の出来事なんてきっと後味の悪いものだろうから、聞かないでおくのが一番いいのかもしれないね」

ご馳走様でした、と空になったカップをソーサーに戻す。
伊野ちゃんはニコリと微笑んでヒュ、と指で空を切る。
カップはまた見えない使用人に運ばれるように厨房の奥へと運び込まれていく。

「知念自身はどうだったの？」

「僕……？」

「【呪い】が開花した時、どんな感覚だった？」

まるで世間話をするかのようなその軽い切り口に思わず言葉が詰まった。
開花も何も、僕はまだ自分の【呪い】の力すら知らないのに。

「……実は、よく覚えていなくて……」

「そっか。悪いことを聞いちゃったね。悪気はなかったんだ」

「そんな！僕のほうこそ、曖昧でごめんなさい」

「ううん……さて、それじゃあそろそろお開きにしようかな」

「そうだね。いい気分転換になったよ、ありがとう」

「こちらこそ。話し相手がいて良かった」

部屋まで送ろうか？と親切に申し出てくれたところを丁重に断る。

「今度は例の庭園でゆっくりお茶会しようね」

「もちろん。いつでも声を掛けてね」

「ありがとう。それじゃあ、お先に」

伊野ちゃんは柔かな笑みを浮かべたまま、一歩踏み出したと同時に消えた。
今でこそ驚かなくなってしまったが、これもこの屋敷に込められている魔力のせい。

僕はまだ、この屋敷の魔法を使うことは出来ない。
そう小さくため息をついて、元来た道を引き返し、自室へと戻った。