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「……涼介、いるの?」


もう一度ドアをノックする。
さっきの呻き声は、彼のものなのだろうか。
中で何が起こっているのか分からない。



「……開けても良いかな?」



扉一枚を隔て、ポツンと途切れたクッキーの道。
僕はまるで甘い蜜に引き寄せられた蝶の気分で。



苦しんでいる人がいるのを見過ごすことは、僕には出来ない。




ガチャ、とありふれた音を立ててその扉を開く。
太陽の差し込む明るい部屋、その一端。
窓のすぐ下にしゃがみ込む、涼介の姿があった。




「……涼介!?」



僕が室内に入ったことを見てか、彼はビクッと小さく震え、こちらを凝視する。
その瞳に映る僕の姿は、恐ろしく精巧だった。



何かに怯えるように身を小さくする涼介の前にそっとしゃがみ込む。



「どこか具合が悪いの?何か手伝えることはある?」

「あ、の……」

「……?」




「誰、ですか……?」




涼介の一言に背筋がゾッと凍るように震えた。
僕はまだ、何か悪い夢を見ているのだろうか。




「え、と……つい先日ここに来たばかりの、知念侑李……です」



まさか、彼は僕の知る涼介ではない?
それとも何か、僕の知らない屋敷のルールでも働いているのだろうか?



ここがあまりにも外の世界とはかけ離れているからこそ、いくらでも想像できる可能性の一つを探すことは困難だ。




「俺は、何で……ここは、一体……!?」

「涼介、落ち着いて……一体何があったの……?」




涼介は僕を怯えた色を含んだ目で見つめる。
彼が嘘をついていたり、僕を騙そうとしているわけではないのは確かだ。




「何が起こってるの?ねえ涼介、これも【呪い】のせいなの?」



何が起こっているか一刻も早く解き明かしたい。
誰かが苦しむ姿を見るのは、とても苦手なんだ。
皆には、ずっとずっと笑顔でいて欲しいから。



彼の苦しみを理解したい。
僕に出来ることがあるなら代わってあげたい。



そうしてまた口を開こうとしたその時、




「……!」



突如、強い耳鳴りがしてその次の瞬間には頭痛が襲い掛かる。
あまりにも鋭すぎる痛みにガクリと崩れ込み、そのまま床へと吸い込まれる。


自分の意思に反して、ゆっくりと意識が引っ張られていくのが分かった。




僕はそれを、どこか他人事のように見ていた。





徐々に狭まる視界の中、目の前に見覚えのある黒いブーツが降り立った。
それが誰なのかを確認する前に、完全に視界が閉ざされる。

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作者名:天凪 | 作成日時:2022年6月21日 23時

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