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宏太がパチン、と指を鳴らすと昨日と同様にティーセットが宙に浮かんでやってくる。
本当に目に見えない使用人が運んでいるように見えるそれは、テーブルの上で静止する。
「魔法を使いたいときは、何をしたいか具体的に念じながら動かすといいよ」
「……僕にも使えるようになる?」
「もちろん、最初はイメージするのが難しいけどね」
ポットを持ち上げ、ティーカップに注ぐイメージをしながら左手の人差し指をヒュンと動かす。
その意識が通じたのか、ティーカップに紅茶が注がれていく。
「初めてにしては上手だね。慣れてくると無意識に使えるようになるからね」
「なら僕は、この魔法を無意識に使えるように練習してみようかな」
「それがいいかもね」
新聞を畳んで宏太に返す。
記事の内容が本当なら、今頃アネモネ国は大変なことになっているだろう。
「光の【呪い】の力だから、きっと上手く調整されているはずだよ」
「そうなの?」
「心配しなくても、また元通りに戻るよ。だから安心して」
穏やかに諭されるような口調に、自分でも恐ろしいことに気付く。
僕たちはただ会話をしていただけだった。
それなのに、宏太は僕が考えていることを見抜いたような口ぶりだった。
……もしかして、彼も涼介と同じように人の内心を覗くことができるのだろうか。
もしそうだとすれば、彼の前であれこれ考えることがとても怖いことになる。
「紅茶、美味しいね」
「うん、美味しい」
どんな時でも、紅茶の味は僕の心を落ち着けてくれる。
「うん、御馳走様でした」
空になったカップを食堂に戻すイメージでまた指を動かす。
するとまるで自我を持ったように、カップはふわふわと食堂へ向かう。
ある程度イメージさえ出来れば、あとはこちらの意図を汲み取ってくれるのかもしれない。
宏太に別れを告げ、当てもなく屋敷の中を散歩する。
昨日は通らなかったところを目指し、渡り廊下を歩く。
そこで奇妙なものを見つけた。
「……え、何……これ」
廊下の中心に、まるで一本道のように並べられたクッキー。
それは初日に食堂で見たものと同じだった。
まるで道案内でもするかのようなクッキーの道を辿ると、一つの扉の前に辿り着く。
そこで僕は息を呑んだ。
【No.4 Anemone】
トントントン、とノックをする。
中から返事は聞こえてこない。
その代わりに、
「……うぁ……っ……」
小さな呻き声が聞こえた。
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作者名:天凪 | 作成日時:2022年6月21日 23時