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「堅い挨拶は抜きにして、ほら!早くご飯食べなきゃ冷めちゃうよ!」

「……君も、雄也と同じことを言うの?」

「ここでは出身国やその身分、年齢や性別は関係ないからね。同じ【呪い】を持つ者同士だもん」




いただきますと手を合わせ、そっととった紅茶のカップ。
ゆっくりとそれを口に流し込めば、優しい温度が口の中に溶けて広がる。



「……うん、美味しい」

「驚いたなぁ……君、貴族の出なの?」



ついさっき身分は関係ないとその口で言ったにも関わらず目の前の彼はその言葉を口にした。
キョトンとした仕草にはまだ少しあどけなさが残っている。



「……ブーゲンビリアの天花(てんげ)とは、君の事だ」

「……その名は、僕には相応しくありません」



カチャ、とカップが音を立ててソーサーの上に戻る。
食器の音を立てるのは行儀が悪いと怒られたのは、もう遥か昔の幼い頃だ。




【ブーゲンビリアの天花】、それが僕につけられた社交界での通称。
ブーゲンビリア国の中で一番美しく、社交界での憧れの的だと噂されたことも記憶に新しい。


けれど、そんな僕も今ではあの輝かしい場所に戻ることは許されない。
僕は天花なんかじゃない。
咲く時期を間違えた狂花だ。




「……ごめんね。嫌な思いをした?」

「いえ、すみません。こちらこそ中島さんにお気を遣わせてしまい……」

「裕翔でいいよ。ここの人はみんなそう呼ぶから」

「……裕翔」

「うん。食事が終わったら俺の部屋に遊びにおいで?今日は【あの日】じゃないでしょ?」




彼が指さす先にはカレンダー。
涼介の番号である【4】と【5】。
幸いと言うべきか、不幸と言うべきか、僕の番号である【8】はまだどこにも記されていなかった。





































あまり朝食は喉を通らなくて、何とか出された分の食事は完食した。
味は美味しかったし、申し分なかった。
けれどどうしても、食欲以上に優先されている懸念が体の中を圧迫する。




ぴょんぴょんと跳ねるように先導する裕翔のあとをついていくだけで精一杯だった。



「俺の部屋はね、この中庭を通り抜けた先なんだ」



中庭に差し掛かる。
そこにはさっき僕の部屋から見えた庭園。



「裕翔、ちょっと待って」

「うん?」

「雄也にも会ったら聞こうと思ってたんだけど、この庭園、昨日は無かったよね?」

「そんなの、高木くんの魔法で一瞬だから、昨日のうちにできたんじゃないかな?」

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作者名:天凪 | 作成日時:2022年6月21日 23時

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