カースト1位《桃》 (ページ3)

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２話ページ3

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　そうは言っても、美化委員は基本的に真面目に仕事をやらない。単純だけどやり慣れていない作業が煩わしく、面倒くさいのだろう。けれど委員みんなに注意するのは手がかかるし、先生も何も言わない。だから今日から始まる朝の水やりは私一人で行っている。親友は……寝坊である。彼女に推薦された森本くんだって、大人しく来るわけがない。誰も来ないAM7:00に登校して水やりを始める。

「……綺麗な花」

　大きなプラスチック製の如雨露を左右に振って水を遣っていた最中、ふと花壇の端に置かれた植木鉢に咲く花に心を奪われる。近くで見ようとしゃがみ込み、まじまじと見つめる。小さいけど強く生きようとする意志を感じる美しいものだった。

「何の花なんだろう……」

　いくら美化委員だとしても、なり立てだし元々園芸に精通しているわけでもない。花の名前など桜や向日葵と言った、見ようとせずとも勝手に視界に入るくらいの季節の風物詩程度しか知らないのである。

「これはカランコエだね」

　ふと自分に影がかかった。ハイトーンボイスが淡く鼓膜を揺さぶった。まさか誰かが現れると思わず後ろを振り向くと、桜にも似た桃色の髪をしたイケメンがいた。“美”という言葉を具現化するとこういうことなのか、とさえ錯覚するほどの端正な顔立ち。淡く優しい絹の髪が目元にかかれば、まさに無敵ピンク。

「美化委員の子だよね？俺もなの。たまにはちゃんと仕事しないとなって早起きして来てみたら、珍しくきちんとやってる子がいてびっくりしたよ」

　なるほど。花の名前にも詳しいこと、こんな朝早くに登校する理由も私と同じ美化委員となれば納得がいく。彼は私のすぐ隣にしゃがみ込み、スッと自然に右手を差し出した。

「俺は三年の京本大我。よろしくね」

　挨拶は人として当然の行為である。分かってはいる。その手を取って少し握り返せばいいだけ。だけどカースト最下位の私がこんなかっこいい人といるなんて場違いすぎるのでは。そんな発想が脳裏を過って私の行動を阻む。

　京本先輩は中々自分の手を取らない私をまじまじと見つめた後、何故か突然私の眼鏡を外した。待って、私それがないと周りがちゃんと見えないのに……！靄がかかったような鈍い視界の中でさえ、先輩が未だじーっと目線をこちらから逸らしていないことが分かった。