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涙を拭おうとするが、──は脱力した左手の代わりに右手で俺の手を優しく、だけど強い力で振りほどいた。


そして踵を返し、向こう側へと歩き始めてしまう。



「行かないでよ、まだ一緒にいたい。」



──は俺の声を聞き一瞬立ち止まったが、振り返ることは無く再び歩き出してしまう。


駄目だよ、まだ行かないで。



置いてかないでよ。




「大貴!!!!!!!!!!」












悲痛なその声で慌てて目を開く。

見えたのは見慣れた白い天井だった。




あぁ。

夢、だったのか。




そう理解した瞬間、目尻に冷たいのが流れる。





情けない。こんな歳にもなって夢を見て泣くなんて。



なるべく赤くならないように指先で軽く目元を拭う。

そしてだるい体をぐいっと勢いをつけて起き上がるがふらりと視界が揺れるので慌てて右手をマットレスにつき体を支える。


朝は忙しい。

だからもうここにはいない弟を思い出して泣いている暇なんかない。

自分に無理やり言い聞かせる。

そう、弟はここにいないのだ。

もう俺の手の届かない場所に行ってしまったのだから。

そうわかっているのに頬を伝う涙が増えているように感じる。


それは気づかなかったことにして、無理やり思考を転換し、これからの行動を脳内でシミレーションする。

朝ごはんを作り、双子を小学校に送って出勤。

やることは山積みだ。


昨日は結局区切りのいいところまでやったら帰ってきた時間が10時を回っていた。

食欲もなかったから、帰宅してすぐシャワーを浴びて双子の顔を見てすぐに寝た。

双子に挟まれてまだ薮がいるとは予想外だったけれど。


気だるくて、憂鬱な体を緩慢に動かして目眩が起きないようにそーっと足を下ろしリビングへ向かう。

涙の跡が双子と幼馴染にバレないようにと願いながら。

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作者名:ちゃん | 作成日時:2023年12月21日 18時

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