≠0 (ページ14)

今日:27 hit、昨日:56 hit、合計:18,410 hit

・ページ14

「最期は、痛くなかった？、苦しくなかった？」

まくった袖を元に戻しながら、大貴の手を握り、そう尋ねる。

「あ、あっちに行ったら母さんと、父さんにもよろしく言っといて？」

「それに、ちゃんと、来世でも、俺の弟として、生まれてきてくれよ、？」

「それに、それに、」

そのあとの言葉は嗚咽で続かなかった。

みっともないほど涙が溢れてくる。

「大貴、起きて、くれよ。もう一度『兄さん』って、呼んで。ねえ、」

「お願い、大貴。」

ぼやける視界で大貴の顔を見つめる。

ずっと前から覚悟、していたはずだったのに。

実際は想像の何百倍も何千倍も心が苦しかった。

例えるならば、浅瀬で溺れているような感覚。

下を見れば地面はすぐそこにある、上を見れば水面が光り輝いて揺れている。

それなのにいつまでたっても自分の足で立てないまま、沖に流されていくようなどうしようもなく頼りなくて、絶望的な感情。

「だいき、。」

弟のその少し子供っぽくはにかむ表情も、クリームパンみたいなすべすべした手の甲も、わたあめみたいにふわふわしていて甘い声も。

全部全部。

「忘れ、たくないよ。」

俺の目から溢れ出た涙がぽつりぽつりと握っている大貴の手の甲に透明な染みを作っていく。

双子の前では泣けないから、泣くのは今だけ。

今だけは泣くのを許して欲しい。

｢あぁぁぁ、、、、、｣

俺の泣き声だけが部屋に充満した。