僕と君と僕らの物語【短編集】 (ページ10)

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あおい匂いと君の声 * Daisuke.S ページ10

『はい、一旦休憩入りまーす！14時再開でーす！』

よく通るスタッフさんの声を皮切りに散り散りになっていく演者たち。
お芝居は舞台とかでやる機会はあったけど、ドラマの撮影というのはなかなか慣れないもので、新鮮な疲労を感じていた。このタイミングでの休憩はありがたい。

少し外の空気に触れよう、と思って外へ出た。残暑特有のもったりとした空気が風に乗って顔にまとわりつく。まだまだ暑いけど、風があるだけマシかな。

｢ありがとうございます、またお待ちしております。｣

優しい声につられて視線を移すと、かわいらしいお花屋さんがあった。今までずっと撮影をしていて、この後も居続けるであろう建物の1階にあって、色とりどりのお花や色んな形をした植物で溢れている。店先で作業している、深い緑のエプロンをした女性がさっきの声の主だろうか。

なんとなく、そのお花屋さんを見てみようと思って足を進めると、女性がこちらに気づいた。

｢いらっしゃいませ。｣

目をくしゃりと細めて微笑みかけてくれた彼女は、たしかにさっきの優しい声の主だった。
会釈をして店に足を踏み入れると、涼しい空気に包まれた。

お店の中は通路があまり広くなく目線より高い位置にもお花が飾られているので、四方八方をお花に囲まれたような空間になっていた。思わず立ち止まる。狭いのに不思議と圧迫感は感じない。様々な色に囲まれているのになんだか落ち着く。

目を閉じて息を吸い込んでみると、涼しい空気とともに華やかなお花と青青した爽やかな草木が混ざった匂いがする。疲労感で重くなっていた頭がふっと軽くなる感覚。

閉じていた目を開けると、視界の端で何かが動いた。通路から少し顔を出してみると、さっきの店員さんが花を何本か手に持って、こちらに背を向けて忙しそうに移動していた。近くに他のお客さんはいないし、彼女だったのだろうか。

大｢うわ、やべ、｣

レジの横に置いてある時計にデジタルの文字で13:52と示されているのが目に入った。急いで戻らないと。
長居しといて何も買わずに出ていくのは気が引けたけど、そんなこと言ってる場合じゃない。仕事だ。そう思ったらさっきまでの疲れが嘘みたいに、なんだか背筋が伸びた。

｢ありがとうございます、またお待ちしております。｣

またあの優しい声が背中に届いて、口角があがるのを抑えながら、撮影現場へ急いだ。