僕と君と僕らの物語【短編集】 (ページ25)

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後輩くんとベランダの私 * Ren.M ページ25

蓮｢A先輩｣

あぁまた、今日も飽きることなく声をかけてくる後輩くん。顔良し、スタイル良し、ジャニーズ所属の人気者が、何の因果か私に懐いたらしいのは彼が入学して間もない頃だった。

『おー、めぐろ！』

授業の間の10分休み、隣の席の男子と駄弁っていると、急にそいつが私の後ろの方に視線をずらして誰かに声をかけた。
後ろを振り向くと、よく知ったクラスメイトたちの中に1人、見覚えのない男子が教室の入口付近にいた。声に気づいてこちらへ向かってくる。

｢知ってる子？｣

『中学の部活の後輩。』

ネクタイの色で一個下の学年だとわかるけど、背の高さと落ち着いた雰囲気に、なんだか年下には見えない。

蓮｢お疲れ様っす、｣

『目黒～、元気？』

目黒くんは｢はい、｣と嬉しそうに答えると、私を見た。

蓮｢どうも、｣

｢どうも…｣

目が合ったからか声をかけられたので、反射的に同じ言葉を返して顔を見る。あれ、綺麗な顔してる。いわゆるイケメンでモテるんだろうな、という感じの顔。

蓮｢そんな見られると恥ずいんすけど、(笑)｣

｢あ、ごめん… 目黒くんモテそうだなって思ってさ｣

蓮｢え、｣

『いや目黒、顔赤！』

意外とピュアな反応。からかわれる羽目になっちゃって申し訳ないな、と思いつつ、2人に｢もう休み時間終わるよ、｣と声をかけた。

それからというもの、移動教室の途中やら昼休みの購買、登校したときの下駄箱などあらゆる場所で、いつの間に私の名前を知ったのか、｢A先輩｣と声をかけられるようになったのだ。
毎日会うわけじゃないけど、忘れた頃に遭遇しては挨拶を交わしたり、世間話をしたりする仲になった。

『篠原、目黒に気に入られてんのな』

可笑しそうに言うこいつを横目に部活へ向かう。
吹奏楽部でクラリネットを吹いている私は、いつも決まってやる事がある。音楽室の近くにある、人ひとり分くらいの広さのベランダ。何用の場所かよく分からないそこで15分くらいウォーミングアップをする。こういう時クラリネットは便利だ。軽くて小さくて音も比較的大きくない。

指を解すように吹いていると、昇降口からひとり人が出てくるのが見えた。この時間に誰かが通るのは珍しい。
その後ろ姿に見覚えがあり演奏を止めると、その止まった音色に反応したのか、彼はくるりと辺りを見回した。

少し上にいるんだよ、と思いつつ、キョロキョロしている彼を観察する。上に視線を投げた彼と目が合った。