僕と君と僕らの物語【短編集】 (ページ19)

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髪と鏡越しの瞳 * Ryota.M ページ19

朝8時52分。一通り開店準備を終え息をつく。受付のカウンターに置いてある予約表に書かれた｢宮舘様｣の文字を指でなぞった。自然と口角があがるのがわかる。

涼太と出会ったのは他でもない、この美容室だ。

彼の先輩でうちの美容室を懇意にしてくれてる方がいて、その方の紹介で彼はやってきた。

『俺の後輩、よろしくねー。』

｢そうそう、紹介してくださってありがとうございます。｣

『いえいえ。あんま愛想ないけど、真面目で良いやつだから。』

施術中に話題に出た例の後輩の方。帰り際にも、『ミヤダテのことよろしくね』と言って手をヒラヒラさせて帰っていかれた。素敵な先輩後輩関係だなと思いつつ、｢ミヤダテ｣の4文字を頭にうかべる。この仕事をしていると色んな変わった名前を聞く機会が多いけれど、｢ミヤダテ｣さんは初めてだな。どうやって書くんだろう。

ミヤダテさんの予約は明日。
彼の先輩にあたるお得意様もとてもいい人だ。そんな方が｢良いやつ｣と称するくらいだから、どんな方なのか会うのが楽しみだな。

翌日、ミヤダテさんは予約の10分前に現れた。

涼｢こんにちは。宮舘です。｣

｢お待ちしておりました。｣

お荷物を預かって席に案内する。私の後ろを歩いて席に着くだけでも、所作が綺麗で見とれてしまう。

｢本日担当します、篠原です。よろしくお願い致します。｣

涼｢よろしくお願いします。｣

｢本日はどうなさいますか？｣

ミヤダテさんは｢宮舘｣と書くらしい。｢だて｣という漢字がわからなくて、2人して指で宙に書いて、それがなんだか滑稽で面白かった。
鏡越しにしっかり目を合わせて｢先輩がいつもお世話になっております。｣と言われた。意志の強そうな眼差しに圧倒され、｢こちらこそ、｣とペコペコお辞儀をしてしまうと、細くなった目と上がった口角が見えて、こんなふうに笑う方なんだと思った。

帰り際、それはそれは良い姿勢と声で｢僕もこれからお世話になります。｣とお言葉をいただいて、これまた挙動不審にお礼を言った。

宮舘さんが通うようになってしばらく経って、いつしかSnow Manの皆さんがうちに通うようになった。
どうやらメンバーさんと美容院の話になって、うちの美容院のことを話したら興味を持っていただいたみたいで。確かに、彼らの先輩も定期的に来てくださるし、彼らにとっては｢安心｣なのだろう。

皆さんとても素敵な方で、素敵な人には素敵な人が集まるのだと思った。