僕と君と僕らの物語【短編集】 (ページ13)

今日:5 hit、昨日:5 hit、合計:13,229 hit

雨と傘と優しい笑顔 * Ryohei.A ページ13

貴重なまとまった休みだった。
幼稚園教諭2年目の夏、お盆休みとずれた数日間が私の夏休み。

最初の2日間はたっぷり寝て、部屋の掃除を隅々までした。お腹がすいた時に適当に食べ、ゆっくりお風呂に入り、録り溜めしていたテレビ番組を観て、そのままソファーで寝落ちしたりして。

休みの終わりが見えてくると、さすがに元の仕事生活に戻れる気がしなくて、今日は朝9時に起きた。早く起きるとやっぱりなんだか気分が良くて、午後には買い物にでも行こうかなという気になった。ちょうど部屋の掃除もしたところだし、インテリアも変えたい気分だ。

心躍らせながら軽い足取りで家を出てきた、のに。お目当ての家具屋さんや通りがかった雰囲気のいい雑貨屋さんを巡って、楽しくショッピングしていた、のに。

｢最悪、だ。｣

突然の雨って。

ポツポツ、と身体に当たったのに反応した時にはもう、ザーッと音を立ててこの辺一帯のすべてを濡らした。その中には言わずもがな、私も含まれている。

目に付いたカフェの屋根に急いで入る。体はそこまで濡れなかったけど、頭と肩周りは結構濡れてしまった。せっかく髪の毛もいつもより時間をかけてセットしたのにな。お情け程度にハンドタオルで軽く拭いてはみた。
相変わらず雨はザーザー降っている。昨日か一昨日に観たドラマに、こんな雨のシーンあったな。あいにく私はドラマのヒロインじゃないから、ずぶ濡れになっても誰も迎えに来てくれないし、雨の中泣いても画にならない。

カランコロン、とどこかで音が鳴ったと思ったら、カフェの扉が開いて人がでてきた。

亮｢うわ…。まじかぁ｣

若い男の人だ。1人でカフェなんて珍しいなと思って見ると目が合ってしまって、軽く会釈をした。

亮｢雨、すごいですね。｣

｢え、えぇ、すごいです、｣

亮｢濡れてますね…。すみません、タオルとか持ってたら良かったけど、｣

｢いえいえ、そんな｣

彼の手には黒い折りたたみ傘があって、ああちゃんと天気予報を見る人なんだなと思った。

亮｢急に降ってきた感じ、ですよね？｣

｢はい…、すぐにここに避難しましたけど、結構濡れました…｣

亮｢そうですよねぇ…｣

この時期は天気不安定だからなあ、と呟き空を仰ぐ横顔。鼻筋がすっと通っていて顎から首へのラインが綺麗。じっと見てしまっていることに気づいて自分で恥ずかしくなり、私も空を見上げた。さっきよりは雨は弱まっていた。