僕と君と僕らの物語【短編集】 (ページ11)

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数日後、また同じロケ地。着々と撮影が進んでいく中、俺の意識はあのお花屋さんに向いていた。もちろん、NGを出さないように本番中はしっかり集中してるけど。

どんどん撮影を重ねていき、ようやくひと段落つき、次の自分のシーンまで時間があると知ったときには、もう足はあのお店に向いていた。

｢いらっしゃいませ～。｣

店に入ると、あの声。思い出しては頭の中で何度も再生した声と、ぴったり合致した。その店員さんはこちらを見ると、あ、と何かに気づいたような顔をした。

大｢え、っと｣

｢すみません…！…あの、数日前に来てくださいました、か？｣

大｢あ、はい！覚えてたんですか、？｣

｢はい…。よかった、人違いじゃなくて。｣

それから俺は撮影の度に、休憩時間や撮影終わりにお花屋さんに足を運んだ。
店員さんは篠原さんという。歳は俺よりも一個上で、もう5年もこのお花屋さんで働いているらしい。好きな花はアネモネ。

｢赤い花が咲くんです。それがかわいくて。｣

このビルでの撮影は最終日を迎えた。頭には彼女のこと。今までは撮影を理由に会いに来れた。これからは理由がなきゃ会えなくなる。俺が彼女に会いたい理由なんて、ただひとつだけど。

ここでの最後のシーンの撮影が終わる。お疲れ様でしたーと声をかけあって撤収作業に入っていく。もう外は暗い。

そういえば、あの店何時までだっけ。もし店が閉まっていたら、と思うと、考えるより先に足が動いていた。

営業時間なんて調べりゃわかることだけど、こればっかりは行った方が早い。お願いだから開いていて。俺は臆病だから、きっと今を逃したら、だめだ。

ビルから出ると見えるお店。オレンジの明かりを確認して、ほっと胸を撫で下ろす。よかった、間に合った。

｢佐久間さん、｣

大｢しのはら、さん、｣

｢どうしたんですか、そんなに息切らして。｣

俺を店の中に促して、レジ横にある木のスツールに座らせてくれた。エアコンの風が汗を乾かしていく。閉店準備のため外に置いてあるものを店内に入れなきゃいけないからと、忙しなく動く彼女をぼーっと見ていた。

大｢今日で、ここでの撮影終わりでした。｣

片付けが終わった篠原さんにスツールを譲って、少ししてから話し始めた。篠原さんは少し視線を落として、そうですか、と言った。

｢…お疲れ様です。｣

大｢ありがとう…。｣

大｢あの、俺、｣

大｢これからもあなたに会いたいです。｣