やわらかな午後に遅い朝食を【短編集】 (ページ9)

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泥のように眠る * Hikaru.I ページ9

｢泥のように眠る｣ってこういうことを言うのか。ベッドの中途半端な位置で沈む彼を見て、そう思った。

仕事を終えて家に帰ってきたら彼の靴があったから驚いた。彼が居ることに驚いたのではなくて、何の連絡もないのに、玄関の電気がついていないのに彼は居ることに驚いた。

恐る恐る家の中に入る。ここは自分の家だし、中にいるのは彼だとわかっているのに、何故か慎重に歩みを進める。だって居るはずの彼が一向に姿を見せないんだから。もしかして、前来たとき靴置いてった？って思ったけど、そうなると裸足で帰ったことになる。さすがにそれはありえない。

リビングのドアを開けると、彼の上着がソファにかかっていた。そして寝室の扉が少し開いている。彼の居場所はわかった。ハンガーにかける元気はなかったけど上着を脱ぐ元気はあったんだな。投げるんじゃなく、軽く形を整えてソファにかけるあたりに彼の丁寧さを感じる。なんか、よかった。いいのかわかんないけど。

少し開いた扉から寝室を覗いてみると、彼の姿。寝ようと思って寝たとしたらまあ不完全な姿勢で。ここへ来て充電切れちゃったんだな、と見て取れる。

開いた扉に体を滑り込ませて寝室に入った。あまりにも静かでピクリとも動かないもんだからちょっと怖くなって彼の肩あたりに顔を寄せた。すると深い呼吸が聞こえる。

かろうじて外側は人のカタチを保ってるけど、この中身はどろどろで、形を作る力は1ミリも残ってないんだろうな。

すぐ入眠する眠りは気絶だって聞いたことがある。きっと彼はそれに近い状態なんだと思う。体力もあって普段疲れた様子は見せない彼のこんな姿を見て、どうしたらいいかわからなくなった。

顔の横に置かれた手に触れたくなったけど、万が一起こしちゃったらいやだからやめた。うちで一番触り心地がいいタオルケットを掛けてあげて部屋を出た。