やわらかな午後に遅い朝食を【短編集】 (ページ33)

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蓮｢とりあえず着替えよ。着替えたらベッドに横になってね｣

とりあえず水。冷えピタってあるのか？キッチンへ向かい冷蔵庫を開けるがそれと思しきものは見当たらない。体温計は記憶を頼りにキャビネットの引き出しを開けたら見つかった。

蓮｢はい、熱計って｣

俺から体温計を受け取ると大人しく脇にはさむ。

蓮｢冷えピタとかない？俺わかんなくて｣

｢冷えピタたぶんない、から、保冷剤いくつかタオルにくるんでもってきて｣

蓮｢なるほどね｣

わかんないから保冷剤とタオルを多めに持って戻ると、ちょうど体温計がピピッと音を立てた。

蓮｢何度？｣

｢…38.4℃｣

バツが悪そうに言う彼女。別に怒ったりしないのに。そういうときもある。

蓮｢高いね｣

赤くなった頬に手を当てると｢冷たい｣と目を閉じた。

蓮｢保冷剤触ったから｣

｢つめたくてきもちいい｣

蓮｢保冷剤とりあえずあるだけ持ってきた｣

タオルにくるんで1個ずつ渡すと、首や脇にはさんでいく。ひとつ挟むたびに｢きもちいー｣と言っているのをみて、できることなら代わってやりたいと本気で思った。

蓮｢なんかほしいものある？｣

少し落ち着いた彼女に訊ねると、俺の手首をとってさっきみたいに俺の手を自分の頬にあて、気持ちよさそうに目を細めた。

子どもの頃に熱を出したときのことを思い出した。寝て起きたら家は静まり返っていて、普段ならあまり気にならない静寂も熱のせいか異常に気になって、なんとも言えない孤独を感じたんだった。
いつしか体調を崩しても誰かに甘えなくなった。たぶんそれは大人になったからじゃなく、無条件に甘えられる人がいないから。体を預けられる人がそばにいると、その存在を求めてしまうのは必然なのかもしれない。

蓮｢早く良くなってね｣

俺の手を持ったまま寝てしまった彼女は、相変わらず顔を赤くして熱のこもった呼吸を繰り返している。辛そうだが、自分が彼女にとって甘えられる人であることが純粋に嬉しい。
苦しい思いはしてほしくないけど、苦しい時に甘えるのは俺であってほしい。どんな時でも守りたいし、俺はこの人のためならできることは何でもしてやりたい。お母さんってこういう気持ちなのかな。

彼女の額に張り付いた前髪を払い、ベッドにもたれて目を閉じた。

無償の愛を注ぎたいのはあなた