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《5年前》



蝉の声がうるさいくらい、空気中に染み渡る初夏

中学2年生の私はお兄ちゃんである一颯と一緒に、ライブスタジオから家へと帰っている

太陽の光がとっても強くて、上からも、アスファルトからも暑さが伝わってくるように思う


一颯(イブキ)「今日はとっても暑いねぇ。大丈夫、A？」

『うん。大丈夫だよ。お兄ちゃんも大丈夫？』

一颯「俺は大丈夫。家に帰ったらまたキーボード弾こうな」

『ほんと？！やったぁ』


お兄ちゃんは相棒であるキーボードを背負っていた。
とっても重いのに、お兄ちゃんは全然重そうにしない



ふとどこからか、旋律が聞こえてきた気がした
綺麗な、聞く人全てを魅了するようなピアノの音


ピアノの音と蝉の声がごちゃごちゃになって混ざりあって、私の世界全てが覆い尽くされてしまった気がした

そのせいで、近づいてくるトラックが鳴らしたクラクションも、お兄ちゃんの声も、何もかも認識できなかった


次に私が聞いた音は

お兄ちゃんがトラックにぶつかった時の、固く、鈍い音だった


『お、お兄ちゃん！！！』


私はすぐにお兄ちゃんに駆け寄って、どうなっているかを確認しに行く

お兄ちゃんの腕は変な方向に折れ曲がっていて、顔は苦痛の色に染まっていた

トラックはいつの間にかどこかに行っていて、私はどうしたらいいか分からなくて

お兄ちゃんが私の頬に手を当てて、無事でよかったって、このキーボードは私が使ってって
沢山のことを私に言ってくれたのに、私は何も返せなかった


やっと私が、自分がトラックに轢かれそうになって、お兄ちゃんが代わりに守ってくれたことを理解した時には、お兄ちゃんの腕は下がっていて、体は冷たかった



そこからはよく覚えていない


私の声に気づいて出てきた大人の人が通報してくれて、病院に搬送されてからお兄ちゃんが亡くなったことが分かって

そこからお葬式までは一瞬のことだった



お兄ちゃんのお葬式には、類や寧々の他にもお兄ちゃんの友達らしき人たちも沢山来ていた

その人たちから聞こえる声は「どうしてあいつが」「ライブもあったのに」「妹を庇ったから」というような内容のものだった

類も寧々も、みんな悲しそうにしていた

私は、もう泣きすぎて涙がかわいて泣くことが出来なかった

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灰朴（ハイボク） - koryi(’-’*)♪さん» 神なんて、ありがとうございます！更新、楽しみにしていてください！ (2023年3月12日 8時) (レス) id: 6db389196a (このIDを非表示/違反報告)
 koryi(’-’*)♪ - 控えめに言って神。神作品をありがとうございます！！更新楽しみに待ってます！ (2023年3月9日 18時) (レス) @page1 id: 69229b7fff (このIDを非表示/違反報告)

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作者名：灰朴（ハイボク） | 作者ホームページ：ありませんっ！  
作成日時：2023年3月8日 17時

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