噂のあの子。６

page.273 ページ35

.









嘲笑うかのような声で
私の名前を呼んで









バカにしたような目で
見下すように私を見てる









恐怖を感じると
人は動けなくなるって本当なんだな









すぐ後ろは事務所だ
それに道路沿いを走ればセフンもいる









だけど足が動かない









『なんで…ここに…』









ようやく絞り出した声は
自分でも驚くくらいに震えてた









.









ヨニ『そんな顔しないでよ〜(笑) せっかくまた会えたんだから』









コロコロ変わる表情と声色
どれが本物なのか全然分からない









ヨニ『怖がらなくていいよ、今日は何もしないから^^』





『今日は…？』





ヨニ『うん、"今日は" ね^^』









その単語だけを強調するってことは
少なからず彼女はまた私に接触してくるのかな









ヨニ『でも、なんだか気が変わりそう〜』





『は、？』









気だるそうに話しながら
フラフラと近づいてくる彼女









反射的に後ろに下がった体
ようやく動いた足は少し震えていて…









.









ヨニ『やっぱり簡単に帰してあげない^^』






『ちょ…っ、』









いとも簡単に彼女に腕を掴まれ
逃げ場を無くしてしまった









なんでこんなに力が強いんだろうか
腕だってこんなに細いのに









真っ赤に塗られた彼女の爪が
じわじわと私の腕に刺さってる









鋭い痛みに顔を歪ませれば









ヨニ『本当に可愛いね、Aちゃんて』









私の顔を覗き込みながら
そうやって口だけで笑った









そんな仕草にさえ
いちいち怖いと感じてしまう









もう声だって満足に出ない
力だって入らない









抵抗するだけで精一杯の私









どうすればいいか分からなくて
ぐっと唇を噛み締めてその痛みに耐えてると…









.









.









.









.









ヨニ『…え、？』









突然聞こえてきた小さな声









.









ヨニ『…ﾁｯ』









そして続けて聞こえたのは
彼女の苛立ちを表す小さな舌打ち









。

page.274→←page.272

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す