【鋼の錬金術師】三兄弟の錬金術師 Ⅲ (ページ33)

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「高額な研究費の支給、特殊文献の閲覧……」

＿＿＿ウィンリィと共にリビングへ通じる扉をそっと開く。

「国の研究機関、その他施設の利用など……国家錬金術師になれば様々な特権が得られます」

物音を立てないように、息を殺してリビングの様子を扉の隙間から伺う。
リビングにはテーブルを囲んだエドとアル、ピナコ、そして見慣れない軍服を身に纏った黒髪の男性が神妙な面持ちで会話をしていた。

「その代わり軍の要請には絶対服従の身になる訳ですが、一般人では手の届かぬ研究が可能になるのです」

一体なんの話をしているのだろう、と隣で同じく息をひそめるウィンリィと目を合わせる。

「この子達が元の身体に戻る方法もあるいは…」

“元の身体に戻る方法”

一瞬、自分の耳を疑った。いや、確かに今までの話を思い出せば合点がいく。貴重な文献や研究を許されるのなら本当にそんな夢物語なことも可能なのかもしれない。

飛びつきたくなるような男の話。そんな動揺を察知されてしまったのか、隣にいるウィンリィは小声で「もう少し聞いてみよう」とAの肩をそっと叩いた。

「でも錬金術は大衆のためにあるものだと…」

「そう、それ故に“軍の狗”などと呼ばれている」

アルの質問に、男は変わらぬ態度で当然のようにそう答えた。

「この子らに国家資格を取れるだけの力量があると？」

ピナコの声色は、普段からは想像もつかないほどに温度を感じられなかった。表情はよく見えない。
ただ、少なくとも機嫌はよくない事が手元の煙管の煙で伺えた。

「エルリック家に残された錬成陣と人体錬成の過程、そして…」

男の視線がアルの巨体へ向く。

「魂の錬成を成し遂げたことで確信しました」

どっ、と心拍が急激に早くなった。

「A…」

『…大丈夫、心配しないで』

フラッシュバックする脳裏の光景に冷や汗が出る。またもや発作を起こしそうになるのをぐっと堪えた。きっとこれはトラウマによるパニック障害のようなものなのだろう。ただ、今はそんなことを気にしていられる状況ではないと自分に必死に言い聞かせ、再び会話へ耳を立てた。

「…………マスタング中佐」

煙管と皺に塗れた口から煙を吐きながら、ピナコは絞り出すように言葉を発する。“マスタング”とは、この男の名前だろう。

「この子達が血塗れで転がり込んできた後にね、あたしはこの子達の家に行ったのさ」

＿＿＿“あの日”の光景が鮮明に掘り起こされる。

「あれ(・・)は…家の裏に埋葬したよ」