【鋼の錬金術師】三兄弟の錬金術師 Ⅲ (ページ30)

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『白い』

それが最初の感想だ。無心で辺りを見渡す。辺り一面白ばかり。平衡感覚が失われそうになるほどの白の空間に眩暈を覚えた。

そして頭を後ろに倒した瞬間、ゴン、と鈍い痛みが後頭部を襲った。痛む頭を押さえて振り向くと、そこにはこの空間には似つかわしくない真っ黒で巨大な扉が浮いていた。

『おい』

あまりにも周りと比べて異質さを放つ扉にたじろいでいると、不意に声を掛けられた。もう一度振り向いて初期位置に目線を戻すと、そこにはまた異質な存在が鎮座していた。

白い身体の周りに黒い靄を纏ったような存在。目も鼻も口もない、生物としては欠陥が過ぎる造形だ。

『ここに来てそうそう頭をぶつける間抜けは初めてだよ』

気のせいだろうか。この声、自分の声に似すぎている気がする。

『…誰？兄さんとアルは？』

『まあ待て、少しずつ話そう』

手を前に押し出しながらもったいぶる不気味な存在。本能的に恐怖を感じる目の前の相手に、Aは今も尚警戒を解けないでいた。

『私はお前たちが“世界”と呼ぶ存在。あるいは“宇宙”、あるいは“神”、あるいは“真理”、あるいは“全”、あるいは“一”＿＿＿＿＿＿

そして、私は“お前”だ』

真っ白で靄のかかった指を向けられる。
はたから聞けば、こんな突拍子もない話誰も信じない。しかし、目の前の相手にはそれを強制的に納得させるほどの異質さがあった。

背筋を嫌な汗が伝い、緊張のあまり喉を上下させる。

『あ、それともう一つ、お前の兄弟は今頃真理を見ている最中だろうよ』

『真理…？師匠が言っていたあの…』

『そう、イズミ・カーティスが言っていた“真理”。ここへ来た者はみんなそれを見る。ただ＿＿』

『ただ？』

表情はない。だが、表情がなくとも白い存在は困ってるような仕草をしていることが伺えた。なにか面倒なことが起こったような、それに対処しなければならない人の様子に似ている。

『A・エルリック、本当に災難だな』

『は？』

『ここへ来たくもないのに来たんだろ？巻き込まれたんだな、兄弟のいざこざに』

その直後、背後で重低音が鳴る。まるで重い扉が開くような＿＿＿＿

『同情するよ』

ゆっくりと、ゆっくりと背後を振り返る。

『まあ、安心しなよ』

大きく開いた扉の向こうから、巨大な瞳がこちらをじっと見つめる。

『“通行料”はお前の兄弟ほど多くないだろうから』

見覚えのある無数の黒い手が、身体を徐々に徐々に徐々に蝕んでいく。

『良い旅を』