【鋼の錬金術師】三兄弟の錬金術師 Ⅲ (ページ29)

今日:23 hit、昨日:9 hit、合計:9,697 hit

・ページ29

小さなネジを指先で弄りながらウィンリィがあっけらかんと答える。それとは対極に、Aの胸の内には小さな不信感が募っていた。

その様子を察してか、ウィンリィは一旦作業を止めると、ニヤリとあくどい笑みを浮かべてAにそっと囁いた。

「いつもより早く帰ってみれば？面白いもの見られるかも」

『なるほど…』

「自分を省いて他の兄弟がコソコソしてるの気分良くないでしょ。今日の分の作業はいいから行ってみなさいよ」

『いいの？うーん……じゃあお言葉に甘えようかな』

ふふっと笑う彼女の笑みは天使のようにも小悪魔のようにも見える。ただ、Aの不安を消し去るにはどちらにせよ兄弟の動向を知る以外手はないため、まんまとウィンリィの策に乗った。

***

＿＿＿辺りが燃えるように紅くなる夕暮れ時。

いつもは日が暮れる直後に帰宅するのをわざと早めたAは、どこかわくわくとした気持ちで帰路へとついていた。兄弟が何をそんなに隠したがっているのか気になってしょうがない。

鼓動が早まる胸を押さえつつ、できるだけ音を立てないようにそっとドアノブを捻る。

『＿＿＿へ』

直後、目が焼き焦げるかと錯覚するほどの光がAの双眸を襲った。

反射で開きかけた扉を閉めたAは、突然の出来事に対応できないでいる。しかし、次の瞬間の出来事がAにもう一度ドアノブを握らせる事となった。

「うわああああああああああああああ！！！！」

＿＿＿耳が張り裂けそうな程の弟の悲鳴。

本能で理解した。あれは命の危機に瀕した生き物が必死の抵抗で絞り出す悲鳴だと。気が付けば考えるより先に身体が動いていた。自分でも驚くほどの速さで部屋へ飛び込む。

辺りは錬成反応で起こる光で満ちており、部屋の中心には見たことのない構築式が描かれている。そして一番目を引き付けたのは＿＿＿

「アルーーーーッ！！！！！」

＿＿＿迫真の表情でアルの名を叫ぶ兄と、錬成陣の中心で身体が消えていく弟の姿だった。アルの身体は無数の黒い手のようなもので分解されていき、その黒い手は錬成陣を発生源として部屋のあちこちに分布している。

その光景が本当に現実なのか分からなかった。

ただ、消える弟と絶叫する兄に手を伸ばすことしか出来なくて。

白。

それが、次に目に飛び込んできた情報だった。