【鋼の錬金術師】三兄弟の錬金術師 Ⅲ (ページ27)

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『＿＿＿髪を』

「うん？」

唇が震える。

『髪を、短くしたいです』

母に近づくために伸ばしていた髪。エドとアルに母の代役を認めてもらうために伸ばしていた髪。自分を奮い立たせ女性らしさを育てるために伸ばしていた髪。

Aの存在の象徴のような髪を今、自分自身が望んで消し去ろうとしている。それがたまらなく怖くて。でもちゃんと分かっている。こんなこともうやめた方がいいと。母の遺言に縛られる必要なんて最初からなかったし、兄弟もそんなこと望んでいないと。

だから＿＿＿

『髪を短くしたいです』

「そっか」

Aの言葉に、イズミは安心したように微笑んだ。いつもの険しい表情とは違い、まるで母親のような表情を向ける彼女に少しだけ動揺する。そんな顔もできるのかと失礼ながら思ってしまった。

イズミはそのまま椅子から腰を上げると、すぐ後ろの扉を開き手を招いた。

「ついてきな。私が切ってあげる」

『！ありがとうございます』

真っ白な布を首周りに巻かれ、鏡の前に座らされる。栗色の髪を櫛でとくイズミの手つきはとても優しかった。あまりにも優しく触れるので、思わず眠気が襲ってきたくらいだ。

「肩に付かないくらいでいい？」

『はい。お願いします』

髪がわずかに濡らされる。そしてしばらくして、耳元で鋏が打ち合う音が聞こえ始めた。鏡に映る自分の顔は、髪が切られるたびにどこか清々としていて。
ひとつふたつと栗色の髪束が床に落ちる。それをぼうっと眺めていると、突然イズミが話しかけてきた。

「ところでなんで母親の真似なんかしてたの？」

結構容赦なく核心を突くような質問を投げてくるイズミに苦笑しつつ、Aは眉を下げて口を開いた。

『母の遺言で、兄弟を頼むって言われたんです。その言葉に執着しすぎて気が付けばこんなに拗れてました。もともと考えすぎる癖があったので…今思えばなんであんなに執着してたんだろうって。兄弟も私が母の真似をしてほしいだなんて一言も言ってなかったのに』

「ふーん、あの兄弟のためにやってたってことね」

『はい。でも結局は私の自己満でしたよ。それにイズミさんのおかげで私を母の代わりとしてじゃなく“A”として見てくれていた人がいるって分かりましたし。もともと誰もそんなの望んでなかったってことですよね』

「師匠って呼べ。…ま、その年にしちゃ良い結論に着けたんじゃない？ほら、終わったよ」

数か月後、また伸ばし始める事になるなんてこの時はまだ考えてすらいなかった。