【鋼の錬金術師】三兄弟の錬金術師 Ⅲ (ページ26)

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『っ、だったらなんで私に仮修行を受けさせたんですか！？』

「実力を確認するためだ。もし実力不足ならこんな話しなくてもお前はリゼンブールへ帰っただろう」

思わず身を乗り出し声を張るAに対し、イズミは至って冷静だ。それが余計に腹立たしく、Aは金色の双眸を苦々しく歪める。

「だがお前にはあの孤島で生き抜き答えを導き出せるほどの実力があった。私はそれを見込んでこの話を振ってるんだ。そもそも何でそこまでして母の形に執着する？」

イズミの視線がゆっくりとAの髪へと向かう。

「その髪の括り方、島で乱れていた時でさえ崩そうとはしなかった…＿＿＿お前の母親そっくりの髪型だ」

『だからっ！なんでイズミさんは私のお母さんの事知ってるんですか！』

「ピナコさんに見せてもらったんだよ」

思いがけない答えにはっと息が詰まる。イズミはその動揺を見逃さず、両手をテーブル上で組み直すと、ゆっくりと事の経緯を語り始めた。

「仮修行に連れていく前日、ピナコさんが話してくれたんだよ。Aが精神的に不安定な事、母の真似事ばかりしている事、兄弟に過剰なまでに世話を焼いている事」

『なんで……』

「Aが心配だったんだろうね。それと同時にピナコさんは今回の仮修行でお前の何かが変わることを期待して送り出したんだ」

やれやれとでも言いたげにイズミは切れ長の目を伏せる。ピナコにそんな思惑があって送り出されていたとは知る余地もなかったAは、眉を潜めて拳を握る事しか出来なかった。

大人を甘く見ていた。
まさかそこまで自分の行動を見て分析している人がいるとはこれっぽっちも思わなかったから。誰も自分に興味なんて持っていないと、そう、思っていた。

母を演じている自分しか見てもらえないと思い込んで今まで生きてきたのに。

『私は、どう、すればいいんでしょうか』

複雑な感情が混ざり合い、もう助けを求める事しか出来なくなった頃。それまで強気だった少女が年相応の心細い表情をイズミへ向ける。イズミはその視線を受け、わずかに目を見開くと顎に人差し指を思案するように当てた。

数十秒にも満たない間頭をひねる素振りを見せた彼女は、険しかった口元に優しく笑みを描いた。

「まずは自分のやりたい恰好すれば？」

『やりたい、恰好…』

母が死んでしばらく、そんなこと考えたこともなかった。母がいなくなってからはどれほど母に近づけるかを重視していたし、母に似ていると言われる事に喜びを感じていたから。