【鋼の錬金術師】三兄弟の錬金術師 Ⅲ (ページ15)

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「いない人にどうやって習うのさ！」

心外だ、とでも言いたげにエドの頬が果実のように赤く膨らむ。そのエドの言葉を補足するかのように、今度はアルが口を開いた。

「本読んだら書いてあったよ」

「書いてあったって……あなた達こんな難しいのが分かるの⁈」

「「なんとなく」」

アルとエドの発言に、トリシャの翠色の瞳がさらに大きく見開かれる。すると、その驚愕の色を宿した視線がAにも注がれた。おそらく、「Aもなのか」と聞きたいのだろう。

Aはそんな母の視線を受け、コクコクと小さく頷いた。

「………世の錬金術師が聞いたら卒倒するわね……」

『…やっちゃいけないことだった？』

呆然と立ち尽くすトリシャに、Aのか細い問いが投げかけられる。エドやアルもAと同様に、申し訳なさそうな様子で金色の双眸をトリシャへ向けていた。
そんな我が子達の様子を見かねてか、トリシャはふっと表情を崩すと膝を折り、三人の子供達を腕の中へ包み込んだ。

「さすが父さんの子ね！母さんみんなに自慢しちゃおう」

＿＿＿優しい母の言葉。
その言葉が嬉しくて、Aとエド、アルはパッと顔を見合わせて笑った。

A達はそれからというもの、トリシャに褒めてもらうために錬金術にのめりこんだ。錬成を成功させるたびに笑顔で頭を撫でてくれるトリシャ。Aはエドとアルほど錬金術が得意ではなく、失敗することも何度かあった。それでもトリシャは「錬成陣を構築できるだけでも十分すごいわ」と褒めてくれる。

「お兄ちゃんとアルはちょっと頑張りすぎる節があるから、錬金術が苦手な分、しっかり者のAが二人を先導してあげてね」

という言葉を掛けられたときは少し複雑ではあったものの、母に“姉”として頼りにされている気がしてAは誇らしかった。しかし、Aはトリシャの言葉を盾に錬金術を怠ることは無い。

母に褒めてもらうためにこれからもいっぱい練習しよう。

エドとアルにも負けないくらいすごいものを錬成するんだ。

ゆくゆくは三人で母を楽させてあげたい。

“母やエド、アルに頼られる存在になろう。”

そう思いながら、Aは頑張った。兄と片割れの弟と母に囲まれながら、Aは努力し続けた。

「母さん!!」

＿＿＿＿＿母が病で倒れるあの日までは。

「エドとアルをよろしくね」

そしてトリシャは数日もしない間にこの世を去った。

＿＿＿＿Aに深い呪いを残して。