【鋼の錬金術師】三兄弟の錬金術師 Ⅲ (ページ12)

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出入口に立っている次の小さな依頼主は、先程とは打って変わった大人しそうな女の子。

色素の薄い短い髪にそばかすが特徴的なその女の子の腕の中には、より一層目を引くものが抱えられている。

「メニィどうしたの。あんたも何か壊したの？」

「＿＿チコが動かないの」

＿＿小さな腕の中に抱えられていたのは、その子の腕よりもさらに小さい猫だった。

「直してよ……」

……あ、この子は初めて生き物の死を目の当たりにしたんだ。

師匠がメニィと呼んだその女の子は、もう冷たくなった愛猫がまだ“直せる”のだと勘違いしている。もしくは、現実から目を背けたいだけなのか。

彼女の真意は分からない。分からない、が＿＿＿

「＿＿＿もう、死んでる」

猫はもう“直らない”。

「こわれちゃったの？」

「ううん、違うよ。死んでしまったの」

「せんせい、チコを直してよ」

「それはできないよ」

メニィの縋るような頼みは、師匠の言葉によってハッキリと切り捨てられる。それでもメニィはまだ諦めがついていないのか引こうとしない。

「だってイズミせんせいはなんでも作れるんでしょ？チコだって…「メニィ」

メニィの小さな手が師匠に優しく包まれる。
師匠は優しくメニィの手を掴むと、その手をチコの心臓部へ、そしてそのまま流れるようにメニィの心臓部へと押し当てた。

「命は物と違うし、私は神様じゃない。チコもメニィも同じ“命”。チコは命が止まってしまってもう戻らない」

チコの心臓と自分の心臓の鼓動を比べても尚、メニィの瞳にはまだ迷いが生まれている。愛猫の死を受け入れられていないのだ。

「だって……きのうまで…………」

「チコの命は作ってあげられないけど、お墓は作ってあげられる。ね？」

＿＿師匠の諭すようなその問に、メニィは大粒の涙を流しながら答えた。

***

「＿＿生きていればいつか命は尽きて、肉体は土へ還り、その上に草花を咲かせる」

赤い空に連なる烏が夕暮れ時を告げる中、師匠がチコの墓を前に口を開く。

「魂は“想い”という糧になり、周りの人々の心に生き続ける。世のあらゆる物は流れ、循環している。人の命もまたしかり」

『……』

「…自分ではこんなにも分かりきっているのにな。未だに子供に死を納得させるのは難しい」

生暖かい風が師匠の黒髪をそのなぞった。それと同時に、エドの金色の髪も夕日を反射させながら煌びやかに揺れる。

「…師匠は命を……死んだ人を生き返らせたいと思った事はありますか？」

「あるよ」