第15話 あんた達のかわり ページ49
焦燥感と無力感に蝕まれながらサテラさんのもとへ戻った私達を待ち受けていたのは、更なるお産の進行だった。家に残っていたパニーニャは大泣きしながら手をブンブンと振り、サテラさんの状態を報告する。
「どどどどどうしようサテラさんから水がドバって、水が！」
「水？！」
『……破水だ』
きっとそうだ。だとしたらもう時間がない。
破水が何か分かっていないエド達に、ウィンリィはとどめを刺すかのように静かに言った。
「……いよいよ生まれちゃうってこと……」
「どーすんだよ医者も間に合わねーのに！！」
そのの発言に正気を失い始めるエド達の首根っこをウィンリィは勢いよく掴むと、ベッドへ横たわるサテラさんの近くにいたリドルさんを呼び寄せる。おろおろとするリドルさんへ投げかけたウィンリィの言葉は、とてもじゃないが耳を疑うくらいに無茶なものだった。
「ええ？！」
「あいつ言い出したら止まんないし、それに今はこれしか無いよなぁ…」
「本気かい？！出産に立ち会った経験は？！」
そう、ウィンリィが提案した内容は“ここにいる者たちで赤ん坊を取り上げる”というものだった。
案の定、旦那であるリドルさんは困惑の眼差しをウィンリィへ向けている。しかし、先ほどエドが言った通り、ウィンリィは一度決意すると止まらない。
もう腹をくくる他ないだろう。
「ないですよ。でも迷ってる暇はありませんから」
ウィンリィは決意を固めた目でそう言うと、エプロンを身にまといサテラさんのもとへ歩みを進み始める。
「みんなで協力して赤ちゃんを取り上げます。
肚、括ってください！」
＿＿＿振り向いたウィンリィの表情は、とんでもなく引き攣っていた。
***
「エドとアルはお湯を沸かして」
「ど、どれくらい？」
「たくさん。パニーニャとAはタオルをあるだけ集めて」
『わ、分かった』
「リドルさん。消毒用のアルコールありますか？」
「あ、ああ」
「それとサテラさんの枕元に飲み水を」
この場にいる人間がほとんど子供しかいない中で、てきぱきと的確な指示を出すウィンリィに些か憧れを覚える。
そんな場違いな感情を頭を振ってかき消し、私はパニーニャの色黒の手を引いて歩きだした。
「ど…どうなっちゃうのかな。ねぇ、大丈夫かなぁ…」
『ここはウィンリィに任せる他ないよ。私らはただ彼女の指示に従うしかできない……まあ、すっごく不安なのは痛いほど分かるけどな』
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作者名：はちまき | 作成日時：2022年2月20日 1時
