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地面がひび割れるのでは無いかと心配になる勢いで対戦相手へと向かうエドを遠目から見守る。
設置されていた机にドンッ、と手を着くエドの気迫はまさに鬼。
厳つい男と本気で勝負しようとする兄を観衆は笑っているが、いつも彼と過ごしている者なら分かる―――あれはマジギレしてるな、と。
「ちょっとエド！いくらなんでも勝てる訳ないでしょ！！」
対戦相手へ獣のように牙を剥き威嚇するエドに、ウィンリィは勝負を諦めるよう怒鳴った。それでもエドは聞く耳を持たない。そんな中、エドの後ろに立っていたアルが一瞬「あ」と一言呟いた。
「姉さん姉さん」
小声でちょんちょんと肩を突いてくるアルの方へ顔を近付けると、アルはエドの手元を見るようコソッと耳打ちした。
アルの言う事に素直に従い、指定された所へ視線を移す――――――ああ、なるほどな。
アルが言いたかった事を理解した瞬間、司会の合図と共に勝負が開かれた。
観衆は思っていた。どうせエドが負けると。
司会は思っていた。勝てるわけが無いと。
対戦相手は思っていた。良い噛ませ犬だと。
「…はい？」
―――機械鎧の部品が地面へ散らばる音と共に、男の間抜けな声が辺りに響く。呆然とする厳つい男の前には、男のちぎれた機械鎧を無惨にも握り潰し笑うエドの姿があった。
「悪ィね―――今日は廃品回収が大忙しだ」
エドがそう言うと同時に、タイミングを見計らっていた機械鎧技師達が、ハイエナのように次々と男へ群がって行った。あっという間に男がいた場所は技師達の集団で人集りが出来ており、そんな様子をエドはさぞ嬉しそうに笑いながら眺めている。
「何やったの？」
ウィンリィが不思議そうな顔でコソッと私に尋ねてきた。技師である彼女はエドが普通に男と戦えば絶対に負けると分かっていたのだろう。素人目から見てもエドと男の機械鎧には色んな意味で差があり過ぎだった。
そもそもそんな負け戦に正々堂々あの兄が挑む訳が無いのだ。
『錬金術で相手の腕を脆い物質に作り替えたんだよ』
「えー、ずるーい」
ジト、と睨むウィンリィに全くたじろぐ事無くエドはただただ勝利の余韻に浸っている。そんな勝者の機械鎧にこの街の住人が興味を示さないはずもなく、次はエドの方へ徐々に人がどんどん集まって来ていた。
「君！ここらじゃ見ない形の機械鎧だね」
「おお、本当だ。見てごらんこの造り」
「え」
「あたしあたし」
「へぇ、お嬢ちゃんが製作者？いい仕事してるねぇ」
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作者名：はちまき | 作成日時：2022年2月20日 1時
