【鋼の錬金術師】三兄弟の錬金術師 Ⅱ (ページ37)

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第14話にわか景気の谷ページ37

―――むせ返りそうな暑さと共に、微かな鉄臭さが鼻を掠める。高く聳え立つ岩谷に沿うように並んでいる店は、どれを見ても機械鎧ばかり扱っていた。

「ラッシュバレー！！“にわか景気の谷”の名の通り、イシュヴァールの内乱があった時に義肢技術を発達させて急速に大きくなった街よ」

厚手の上着を脱ぎながら、私は興奮した様子で話すウィンリィを眺めていた。機械鎧好きの彼女にとって、この街はきっと天国のように輝いて見えているのだろう。

『本当に機械鎧だらけなんだね』

「“機械鎧技師の聖地”って言われる程だからね！未だに国内のあちこちで戦火が上がってるから義肢の需要は多いみたいよ……本当はこんな商売が繁盛しない世の中になればいいんだけど…」

それまで楽しそうに話していたウィンリィの表情がほんの少し暗いものへと変わる。どう言葉を掛けてやればいいのか分からないでいると、通りの方から突然観衆の大声が響き渡った。

「すげー！51連勝！！」

「勝てねーよあんなの！！」

異様な程の盛り上がりを見せる人集りへ引き寄せられるように近づくと、その中心には強面の厳つい男がどっしりと椅子へ腰掛けているのが見えた。
隣には、司会のような役割をしている小柄な男が言葉巧みに挑戦者を募っている。

「機械鎧装備者限定の腕相撲だよ！賭け金1万センズでこいつに勝てたらテーブルの上の賭け金の山は全部持ってけ泥棒だぁ！！」

金に目が眩む者、自身の機械鎧を自慢したい者など、様々な機械鎧装備者が強面の男へ挑戦しに行くがどの者も最終的には機械鎧を粉砕され技師達に連行されていた。

「さあて次は…おおっと、そこのでかくて強そうなお兄さん！どうだいひと勝負！」

司会が次に目を付けたのは、私の後ろでただ観戦していたアルだった。アルは自分が当てられるとは思っていなかったのか、オロオロと慌てて勝負を拒否。

「そんじゃあこっちの右腕が機械鎧の…」

そうして次に司会が目を付けたのは、アルのすぐ隣にいたエドだ。値踏みをするようにじろじろとエドの機械鎧を眺める司会だったが、彼は自身の額に手を置くとまるでエドを馬鹿にするように笑った。

「おう失礼！こんな豆坊ちゃんじゃ元から勝負にならないね！！」

やれやれと額をペチペチ叩きながら話す司会の男に、周りの観衆はどっと腹を抱えて笑い始める。
嫌な予感がしてアルとウィンリィと共にエドの様子を伺えば、彼の額には幾つもの青筋が浮かんでいた。……このエドの様子ではもうこちらの話に耳を傾けてはくれないだろう。