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そう言ってウィンリィはバッグを漁ると、中から厚さの薄い箱を取り出した。何かと私が覗き込むと、ウィンリィはニッと笑っておもむろに蓋を開ける。
「じゃーん、アップルパイだよー♪」
爽やかな甘い匂いと共に箱の中から現れたのは、こんがりと焼き色の着いたパイだった。ウィンリィの話によると、どうやらこのアップルパイは中佐の奥さんが作ったらしい。
「……それにしても多いな」
「あはは、4人分作ってくれたみたいよ」
そうか、中佐の奥さんはアルが食事をする事が出来ないの知らないもんな。どうりで量が多いわけだ。
「ボクの分も食べなよね兄さん」
「う"！！病院での仕返しかてめこのヤロー」
『まあまあ…無理そうなら私も食べるからさ』
エドを挑発するかのように笑うアルを落ち着かせ、私は箱の中のアップルパイへ手を伸ばした。食欲を刺激する香りを放つそれを口へ頬張ると、じんわりと優しい甘味が広がる。
『うまっ！』
「ヒューズさんの奥さんね、すっごい料理上手なんだよ。作り方教えてもらったから、アルが元の身体に戻ったら焼いてあげるね」
「やたー！」
ウィンリィがそう言うと、アルは巨体も憚らずに両腕を上げて喜んだ。可愛らしい。
……料理かぁ。私も久しぶりに今度やってみようかな。パイを口へ頬張っていく私達を見て、ウィンリィは心底嬉しそうに笑った。
「ヒューズさんも奥さんもエリシアちゃんも、すごくいい人だった」
「ヒューズ中佐って親バカで世話焼きでうっとーしいんだよなー」
『でも何だかんだ気にかけてくれてさ』
「いっつも病室に兄さんをからかいに来てたよね」
口を尖らせて文句を言うエドだったが、その険しかった表情はすぐに緩んだ。窓の外を見据えながらエドは緩く口角を上げる。
「ほんとに………“毎日仕事で忙しい”って言いながらしょっちゅう見舞いに気やがんの」
―――珍しくエドの悪い目付きが穏やかになっている。
毎回飽きもせず悪態をつく兄だが、やはり本心ではちゃんと恩義を感じていたのだろう。そんなエドの様子を、私はまだ少し熱を持つパイを片手に見守った。
「―――今度、中央に行ったら何か礼しなきゃな…」
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作者名：はちまき | 作成日時：2022年2月20日 1時
