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「これ…この建物なんだろう」
「以前は第五研究所と呼ばれていた建物ですが、現在は使用されていないただの廃屋です。崩壊の危険性があるので立入禁止になっていたはずですが」
少尉の言葉を聴き終わったエドは、確信を得たように「これだ」と、指をある場所へ滑らせる。エドが指し示したのは、第五研究所近くにある刑務所だった。
「賢者の石を作るために生きた人間が材料として必要って事は材料調達の場がいるって事だ」
なるほど、たしかにそれなら辻褄が合う。
死刑囚は処刑後も遺族に遺体は返されない。表向きは絞首台で死んだ事にして、生きたままこっそり研究所に横流しにしてもバレないという事だ。
『なるほどな、そうなると刑務所に一番近い施設が怪しいって訳だ』
「そゆこと」
ビシッと正解だと言わんばかりに指を差してくるエド。一方少尉はこれまでの非現実的な話に心配になる程顔色が悪くなっていた。
「…囚人が材料……」
「嫌な顔しないでくれよ。説明してるこっちも嫌なんだからさ」
「刑務所絡みってことは、やはり政府も一枚かんでるって事ですかね」
「一枚かんでるのが刑務所の所長レベルか政府レベルかは分からないけどね」
軍曹とエドの会話に少尉の顔色は悪くなる一方だ。
「とんでもない事に首を突っ込んだ気がする」と言う少尉と軍曹に、アルは「だから聞かなかったことにしろって言ったでしょう」と厳しくもまともな返答を返した。
「―――うむ、しかし現時点ではあくまでも推測で語っているに過ぎん。国は関係なく、この研究機関が単独でやっていた事かもしれんな」
確かに少佐の言い分も最もだ。仮に国が絡んでいるとしたらこんなひとつの研究所どころの規模では済まないような気もするが―――氷山の一角、となれば話は別だろう。まあこれも憶測に過ぎない。
「この研究機関の責任者は？」
「名目上は“鉄血の錬金術師”バング・グラン准将という事になっていたぞ」
「そのグラン准将にカマかけてみるとか…「無駄だ」
――エドの言葉を遮った少佐の表情が酷く険しくなる。
「先日、スカーに殺害されている」
『…』
「スカーには軍上層部に所属する国家錬金術師を何人か殺された。その殺された中に真実を知る者がいたかもしれん」
先と比べて少し落ち着いた様子の少佐は、テーブルに広げた地図を筒状に丸めながら話を続けた。
「しかし本当にこの研究にグラン准将以上の軍上層部が関わっているとなると、ややこしい事になるのは必至。そちらは我輩が探りを入れて後で報告しよう」
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作者名：はちまき | 作成日時：2022年2月20日 1時
