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「落ち着いてくださいと言っておるのです!」
少佐は話を聞かないドクター・マルコーに痺れを切らしたのか、木箱に詰められているアルを投げ飛ばすという強硬手段に出た。みしっという音と共に、ドクター・マルコーはアルの木箱の下敷きになる。
ドクター・マルコーには気の毒だが、銃撃が止んだ事に私はほっと胸を撫で下ろした。
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「____私は耐えられなかった……」
落ち着いたマルコー氏に家の中へ招かれ、私達は彼がなぜそんなにも軍人を警戒しているのかの成行きを聞いている。
「上からの命令とはいえあんな物の研究に手を染め…そして“それ”が東部内乱での大量殺戮の道具に使われたのだ…」
あまりにも酷い内容に、私は眉を顰める。
同様にマルコー氏も悲壮な表情を浮かべていた。
「本当にひどい戦いだった…無関係な人が死にすぎた…」
『…』
「私のした事はこの命をもってしてもつぐないきれるものではない。それでもできる限りの事をと…ここで医者をしているのだ」
「___いったい貴方は何を研究し、何を盗み出して逃げたのですか?」
少佐のその問いに、マルコー氏はつらそうな様子で眉間に指を当てる。
そしてマルコー氏は重い口を開くと______
「賢者の石を作っていた」
確かにそう言った。
驚いて目を見開くと、同様にエドも同じような表情をしているのが見えた。
「私が持ち出したのはその研究資料と石だ」
「石を持ってるのか?!」
エドが食いつくように叫ぶ。
マルコー氏は「ああ」と答えると、席を立ち上がり棚の方へ向かっていった。
「これだ」
マルコー氏がそう言って棚から取り出したのは、片手にすっぽり収まるほどの小瓶だ。中には石ではなく、真っ赤な液体が半分より少し多いくらいの量で入っている。
「“石”って…これ液体じゃ…」
エドが言葉を発すると同時に、マルコー氏は小瓶の蓋をきゅぱっと開けた。
すると何を思ったのか小瓶を傾け、中の液体を垂らし始めたのだ。一瞬慌ててしまったが、それは予想外の形でとめられる事となった。
____なんと、零れた液体が机の上にドーム状で固定されたのだ。簡単に言うとスライムのような感じで机の上に鎮座している。
エドは驚愕の眼差しで真っ赤な“ソレ”をつつき始めた。
「賢者の石にいくつもの呼び名があるように、その形状は石であるとは限らないようだ」
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作者名:はちまき | 作成日時:2022年2月10日 12時