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軍の施設を飛び出したエドを追いかけ、今私達はぽつんと時計台の段差に腰をかけている兄の隣に座っている。
沈黙の空気の中で、最初に口を開いたのはアルだった。
「兄さん」
「ん?ああ…なんだかもういっぱいいっぱいでさ。何から考えていいかわかんねーや」
綺麗な金髪に溜まった水滴を落としながらエドは話を続ける。
「……昨日の夜からオレ達の信じる錬金術ってなんだろう…ってずっと考えてた」
「…“錬金術とは物質の内に存在する法則と流れを知り分解し、再構築する事”」
「“この世界も法則にしたがって流れ循環している。人が死ぬのもその流れのうち”。“流れを受け入れろ”師匠にくどいくらい言われたっけな」
『……その言葉久しぶりに聞いたよ。懐かしいね』
「ああ」
エドは控えめに笑いながら頷いた。
「わかってるつもりだった。でもわかってなかったからあの時……母さんを……そして今も、どうにもならない事をどうにかできないかと考えている」
____脳裏にニーナとアレキサンダーの姿が浮かんだ気がした。
「オレはバカだ。あの時から少しも成長しちゃいない____外に出れば雨と一緒に心の中のもやもやした物も少しは流れるかなと思ったけど…顔に当たる一粒すらも今は鬱陶しいや」
「____でも、肉体が無いボクには雨が肌を打つ感覚も無い。それはやっぱりさびしいし、つらい」
アルは自身の掌を見つめながら言った。
私は右目の眼帯に触れながら聞き耳を立てる。
「兄さん、ボクはやっぱり元の身体に…人間に戻りたい」
『…私もだよ兄さん。こんな狭い視界で人生を終わらせたくない____
たとえそれが世の流れに逆らう、どうにもならない事だとしても』
私は眉を下げながら笑うと、エドは私の頭をわしゃわしゃと雑に撫でた。
髪がくしゃくしゃで兄の様子を伺うことは出来なかったが、心做しかさっきよりも明るくなっているような気がする。
そんなやりとりをしていると、遠くからエドの名前を呼ぶ男性の声がここまで響いてきた。
髪をかきあげて向こうを見ると、憲兵らしき男がこちらへ走ってきているのが見える。
エドの目の前まで迫ってきた憲兵は、どうやらエドに伝えなければいけない知らせがあるようだった。
「至急、本部に戻るようにとの事です」
私とアルには関係の無い話だろうと思い、少しエドから距離を取ろうとすると、私はエドに説明を始める憲兵______の、後ろにいる人物と目が合った。
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作者名:はちまき | 作成日時:2022年2月10日 12時