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「もしも“悪魔の所業”というものがこの世にあるなら今回の件はさまにそれですね」
ホークアイ中尉の声が後ろから聞こえた。
「悪魔か…身も蓋もない言い方をするならば我々国家錬金術師は軍属の人間兵器だ。一度事が起これば召集され、命令があれば手を汚す事も辞さず____」
雨で張り付いた前髪をかきあげながら、私は後ろを振り向いた。
「人の命をどうこうするという点ではタッカー氏の行為も我々の立場もたいした差は無い、という事だ」
「それは大人の理屈です。大人ぶってはいてもあの子はまだ子供ですよ」
階段を降りながら大佐と中尉が、私達との距離を徐々に詰めてくる。
「だが彼の選んだ道の先にはおそらく今日以上の苦難と苦悩が待ち構えているだろう。無理矢理納得してでも進むしかないのさ
そうだろう、鋼の」
私達が座っている段差まで降ってきた大佐はエドにそう説いた。
「いつまでそうやってへこんでいる気だね」
「……うるさいよ」
びしゃびしゃに濡れきった腕を組みながら、大佐に目も合わせず無愛想にエドは答えた。
「軍の狗よ、悪魔よとののしられてもその特権をフルに使って元の身体に戻ると決めたのは君自身だ。これしきの事で立ち止まってるヒマがあるのか?」
「“これしき”……かよ
ああそうだ、狗だ悪魔だとののしられてもAとアルと3人元の身体に戻ってやるさ。だけどな、オレたちは悪魔でもましてや神でもない」
エドは悲痛な顔で立ち上がる。
「人間なんだよ!たった一人の女の子さえ助けてやれない!ちっぽけな人間だ………!!」
「…………カゼをひく。帰って休みなさい」
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『おかあさん、おかあさん、おかあさん!』
ぱたぱたと走りながら、私は台所にいる母に駆け寄った。
「どうしたの?A」
『みてみて!ほら!』
私は母そっくりに結んだ自分の髪を母へ見せた。
「あら、母さんとお揃いね!Aは本当に私そっくりね〜、母さんびっくりしちゃった」
愛おしそうに私の頭を撫でる母の顔。この表情を私は見たかったのだ。
『わたしね!おかあさんみたいな女の人になりたいんだ!エドとアルにもおかあさんみたいっていわれたんだよ!』
「そう…でも、
あなたはエドとアルの母親代わりにはなれなかったわよね」
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作者名:はちまき | 作成日時:2022年2月10日 12時