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ゴッという鈍い音と共にエドはタッカーを壁に叩きつけた。
襟を掴みながら鬼のような形相の兄をアルは「兄さん!!」と止めようとしている。
私は違和感の正体をやっと理解し、その場に崩れ落ちる事しかできなかった。
「この野郎…やりやがったなこの野郎!!2年前はてめぇの妻を!!そして今度は娘と犬を使って合成獣を錬成しやがった!!」
「……!!」
アルもエドの言葉で状況を理解したらしく、信じられないといった様子で床にちょこんと座る合成獣を凝視している。
私は抜けた腰を上げ、ゆっくりと“ニーナとアレキサンダー”へ近付き優しく…優しく頭を撫でた。
合成獣は「お、ねぇ、ちゃん」と拙い言葉を喋り、尻尾を激しく振っている。
「そうだよな、動物実験にも限界があるからな…人間を使えば楽だよなあ、ああッ?!」
「は…何を怒る事がある?医学に代表されるように人類の進歩は無数の人体実験のたまものだろう?君も科学者なら…「ふざけんなッ!!こんな事が許されると思っているのか?!こんな…人の命を弄ぶような事が!!」
「人の命?!はは!!そう、人の命ね!鋼の錬金術師!!君のその手足と弟、そして右目の無い妹!!それも君が言う“人の命を弄んだ”結果だろう?!」
ブチッとエドの何かが切れた。
振りかぶったエドの機械鎧の右腕が、タッカーの左頬を直撃。
口の端から血を流すタッカーはそれでも怯まずエドを嘲笑する。
「はははは!同じだよ君も」
「ちがう!」
「ちがわないさ!目の前に可能性があったから試した!」
「ちがう!」
「たとえそれが禁忌であると知っていても試さずにはいられなかった!」
その言葉にエドはもう一度タッカーの左頬を殴る。殴る。殴る。
返り血が着いても。機械鎧が軋んでもエドはタッカーを殴り続ける。
そしてエドは渾身の一撃をタッカーへ入れようとした瞬間、アルの手によってそれは防がれた。
「兄さん、それ以上やったら死んでしまう」
「……ッ!」
アルの言葉にエドは荒い息と掴んでいた襟を渋々離す。
「はは…綺麗事だけでやっていけるかよ…」
「タッカーさん
それ以上喋ったら今度はボクがブチ切れる」
私でさえ見たことが無いアルの激昂に、タッカーはぐっと押し黙る。
私はニーナとアレキサンダーに向き直ると、優しく頬を撫でた。
『ニーナ、アレキサンダー、本当にごめん。今の私達の技術じゃ君達を元に戻してあげられないんだ。本当にごめん。ごめんな』
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作者名:はちまき | 作成日時:2022年2月10日 12時