第5話 錬金術師の苦悩 ページ28
「今回の件でひとつ貸しができたね大佐」
にやりと笑いながらエドは言った。
エドの視線の向こうで眉間に皺を寄せているのは先の騒動で活躍したマスタング大佐だ。
「……君に借りをつくるのは気色が悪い＿＿＿＿いいだろう、何が望みだね」
「さっすが♪話が早いね」
観念したようにため息をつく大佐を他所に、上機嫌にエドは要望を並べ始めた。
「この近辺で生体錬成に詳しい図書館か錬金術師を紹介してかれないかな」
「今すぐかい？せっかちだなまったく」
席を立ち、大佐は自信が座っていた席の後ろに設置してある本棚へ向かうと、いくつかの資料を持ち出した。遠目でちらりと覗いてみると、その資料には錬金術師らしい人物達の写真が載っている。
「“遺伝的に異なる二種以上の生物を代価とする人為的合成”＿＿＿＿つまり合成獣錬成の研究者が市内に住んでいる。“綴命の錬金術師”ショウ・タッカー。2年前、人語を使う合成獣の錬成に成功して国家錬金術師の資格をとった人物だ」
「人語を使うって……人の言葉を喋るの？合成獣が？」
「そのようだね。私は当時の担当じゃないから実物を見てはいないのだが、人の言う事を理解しそして喋ったそうだよ」
そんな合成獣が存在するのか、と驚いていると、その後の文章を先に読んだ大佐が突然表情を険しくした。
「ただ一言、“死にたい”と」
『！』
「その後、エサも食べずに死んだそうだ＿＿＿＿まあとにかく、どんな人物か会ってみる事だね」
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
＿＿＿＿＿＿＿＿
私達は大佐の車に乗せられ、タッカー氏の家へ向かった。
彼の家はかなり大きく、普通の家に住んでいた私達には大層な豪邸に見えるほどだ。エドも目を丸くして観察している。
大佐は玄関の階段を上り呼び鈴を鳴らしてタッカー氏の出迎えを待った。
「＿＿＿＿＿ふんぎゃあああああああああ！！！！」
後ろから何故かエドの甲高い悲鳴が響きわたる。
驚いて振り向くと、そこには大型犬の下敷きにされている無様な兄の姿があった。
キィ…、と扉が開く音と共に、「だめだよアレキサンダー」と言う、犬の名前を呼ぶ少女の声が聞こえた。
玄関の方向に視線を移すと、自身より高い位置にあるドアノブを握ってこちらを見ている可愛らしい女の子の姿があった。その後ろにはおどおどとした眼鏡の男性がいる。
「ニーナだめだよ。犬はつないでおかなくちゃ…」
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作者名：はちまき | 作成日時：2022年2月10日 12時
