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「これがなんだと…」
その銀時計を見て少しして、中尉の顔色がみるみる悪くなっていくのが分かった。額に冷や汗が滲んでいる。
「中尉殿、なんですこのガキ…「馬鹿者!!国家錬金術師を知らんのか!!大総統府直轄の機関だぞ?!」マジすか?!あんなちっこいのが?!」
中尉は部下となにやらヒソヒソと話し始めると、何を思ったのかエドに対しごまをスり始めた。
手をこねながら近付く中尉にエドの表情が少し険しくなる。
「部下が失礼いたしました。私この街を治めるヨキと申します。こうしてお会いできたのも何かの縁!ささ、こんな汚い所におらずに!田舎町ですが立派な宿泊施設もございますので!」
「…そんじゃ、おねがいしますかねー!ここのおやじさんケチで泊めてくれないって言うんで」
そのエドの発言に親方の眉間にしわが寄っている。
その後、ヨキは店に罵詈雑言を浴びせた後、エドと共にその場を去った。
「ぐわー!ムカつく!!」
『どっちが?』
「「「両方!!」」」
かなりご立腹な店内の人達の反応に苦笑いを返しつつ、私はエドの背中を見送った。
____しかし、あのヨキ中尉とやら。本当にこんな仕打ちだけで終わらせるような男なのだろうか。
何か言い表せないような嫌な予感を感じた。
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その嫌な予感は最悪の形で的中する事になった。
焦げ臭い匂いに、焼け跡の前に膝を着く二人の男女。
「ひでぇ…」
その惨状を見た炭鉱夫の一人が呟いた。
「昨日の夜、ヨキの部下が親方の店の周りをうろついていたの俺見たぞ」
そう、焼け跡の前に膝を着く男女は親方とその奥さんだ。すこし焦げた店の看板を抱えて涙を流す奥さんを見ていられなくてつい目を逸らす。
そんな中、カヤルがゆっくりと口を開いた。
「……親父が錬金術をやってたのはこの街を救いたかったからなんだ」
顔を上げカヤルはエドを見つめる。
「なぁエド、あんた黄金を錬成出来る程の実力者なんだろ?ぱっと錬成して親父…街を救ってくれよ…!」
「だめだ」
「そんな…!いいじゃないか減るもんじゃないし!」
「錬金術の基本は“等価交換”!あんたらに金をくれてやる義理も義務もオレにはない」
『兄さん!』
「てめえッそれでも錬金術師か!!」
目に涙を溜めたカヤルがエドに掴みかかった。
今にも殴りそうな勢いのカヤルに、エドは淡々と話を続ける。
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作者名:はちまき | 作成日時:2022年2月10日 12時