□夢 ページ1
夢を見た。
それは最近よく見る夢で、特に何か特別なことが起こるわけでもないのに、妙に心に残ってジクジクと柔い部分を刺した。
夢の始まりはいつでも同じ。
何もない、どころか上下左右もわからない白い空間をパジャマを着た私は特に当てもなくフラフラと進む。
そのうち私は、私と同じくらいの年の少女を見つけるのだ。
私の通う学校の制服を着ていて、私を見るとニコリと笑って片手をあげる。私も同じように返す。
背中の辺りまで伸ばされた髪はボサボサでまとまりがなく、長めの前髪は少女の顔に影を作る。
だから私は彼女の顔をハッキリと見たことはない。
それでもいつでもきまって張り付けたようないやらしい笑顔を浮かべていることは分かる。
その笑顔のままで「今日は何かいいことあった?」と聞いてくるのだ。
きっと彼女はわかって聞いている。しかし私はそれに答える。
「何にも、いいことなんてなかったよ」
満足そうに笑うと重ねて今日は何があったか尋ねてくる。私もそれに答える。
今日はこんなひどいことを言われた。
今日はこんな悲しいことがあった。
愚痴に近いそんな話をニコニコと聞いていた少女はそのまま、さっきと同じような調子でさも不思議だと言わんばかりにこう言うのだ。
きまって、言うのだ。
「あなたどうして生きてるの?」
その瞬間、私の中で何かのスイッチが入り、抑えていた感情が爆発する。
あんたなんかに何が分かる、あんたみたいなやつが私を苦しめる、あんたみたいは奴は大嫌い。
あんたなんか大嫌い!
衝動に任せて首を絞める。それでも少女の表情を歪ませることはできない。
それがもう気持ち悪くてしょうがない。
なんでこいつは笑うんだ。なんでこいつは笑えるんだ。
私を見て、私を嘲るように。見下すように。
蔑むように。
笑うのだ。
事切れる間際でさえ、彼女は笑う。
笑って言う。
「なんだ、結局殺すんじゃない。」
*
目が覚めた。
荒い呼吸を繰り返し、汗でベタついた長めの前髪をかきあげる。
なんとか平静を取り戻そうと頭を振るとボサボサの背中まで伸ばした髪が揺れた。
言い様のない喪失感に襲われて胸が苦しい。
もうすでに太陽の昇った空は明るく、私は重い体を起こして夢の中の少女と同じ制服に着替える。
また、今日が始まる。
鏡の中の私は張り付けたような笑顔を浮かべていた。
___夢を見た。
私の大嫌いな、私を殺す夢を見た。
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作者名:ハル | 作成日時:2018年7月11日 23時