第九巻 ページ10
三人はその後、出された蕎麦を腹へと流し込み、勘定を済ませて表へ出た。
表の空はとても晴天で、その太陽が照らす光は全く秋を感じさせない温かさであった。
「さて、兄者。モノノ怪は一体何処に居るんだ?」
その空気を肺いっぱいに吸い込み、吐き出した浅葱は薬売りにそう問いかけた。
「彼岸花がとても多く咲く村だそうだ。」
「彼岸花...。」
彼岸花とは別名、曼珠沙華。
その花弁は赤くて細長く、仏学では天に咲く白い花とも言われている花だ。
そして、ちょうど今の季節は秋。
彼岸花が見事に咲き乱れる季節だ。
紫月は、そんな彼岸花が多く咲く山と聞き、脳裏に地面一面に咲く彼岸花を想像した。
流れる澄んだ川、優しくそよぐ木々や花の音。
そして何より、凛と咲く彼岸花が風に煽られ、空へと舞って行くその光景は、想像した物でも美しかった。
「とても、素敵な村ですね」
紫月は思わずそう呟いた。
薬売りはその紫月の明るい表情を見ると、少し安心したのか小さく微笑み「では、急いで行きますか」と、先程見ていた方向へと進み始めた。
しかし紫月は少し悩んでいた。
美しく、楽しそうな場所と想像して、とてもその村に行きたくなったのは事実。
だが、その気持ちとは裏腹に、行ってしまっては、大変な大事になってしまうと言う予感がした。
何故自分はこうも矛盾した気持ちが出てくるのかは分からない。
もしかしたら、なに者かの警告かもしれない。
そう紫月は疑うが、紫月はモノノ怪の為に三味線を叩く三味線叩き。
そんな不思議な存在を恐れてはいけなかった。
そして紫月は三味線を少し強めに抱き抱え、薬売りと浅葱の後を追った。
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作者名:赤青ほととぎす/瑪瑙 x他1人 | 作者ホームページ:http
作成日時:2018年11月27日 22時