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やがて、問題を解き終えたカイがハイネたちを見た。
その眼差しには敵意も悪意もなく、曇りのないガラス玉のようだ。
「先生……俺も……弟たちも……世話になる……よろしく」
「こちらこそ。では、失礼致します」
差し出されたテストを受け取り、丁寧にお辞儀をしてカイの前から辞す。
元来た道を戻りながら、ハイネもシリルもしばらく何も言わなかった。
庭園を抜けて王宮へと戻り、長い廊下を無言で歩く。
「――で、シリルさん」
口火を切ったのはハイネだった。
「なんですか」
「今のお気持ちをどうぞ」
「どうして私に聞くんですか」
「ご自身の言動を振り返って、何か言いたいことがあるのではと思い」
「猛烈に反省してます」
即答だった。ちなみに真顔だ。
ハイネが視線を向けると同時に廊下の真ん中で頭を抱える。
「もう何ですか誰が気性が荒いことで有名なんですか、滅茶苦茶のんびり屋のおっとりさんじゃないですか。誰あんな噂流したの……」
目つきこそ鋭いが、しかし、それだけだ。
そのせいで敬遠されながらも、彼はきっと、本当は優しくて忍耐強い、他者を思いやれる人物なのだと思う。
それを誤解して怖がるだなんて、お門違いも良いところだ。
あと、見た目に反して言動がいちいち可愛かった。何だあの反則技は。
散々怯えた挙げ句の肩透かしに罪悪感と徒労を覚えながら、シリルは深く溜め息を吐いた。
「まったく……この情報、当てにならないにも程がありますね……」
王子に関する様々な情報を集めたつもりだが、まったくもって役に立たない。本当にガセネタだった。
シリルの言葉にハイネも同意を示す。
「本当に……当てになりませんね。他人からの情報を寄せ集めた資料など。何事も、自分の目で確めなければ」
資料はハイネの手に破り取られ、細かな紙吹雪となって落ちていく。
廊下に舞う紙片を見つめ、シリルもパンッ、とファイルを閉じた。
「……新しいの、作らないとですね」
「そうですね。1から作り直しましょう」
「まぁ、それはそれで問題だらけな気もしますけど。……皆様、随分突飛な個性をお持ちで」
「それを矯正するのも王室教師の仕事です」
「王室教師って一体何ですか……」
「さて。行きますよ」
胡乱な眼差しを向けるシリルから逃げるようにハイネが歩き出した。
若干不穏な言葉に戦々恐々としつつ、その背を追いかけた。
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まぼぷりん。 - 22話、「気位エベレスト王子」じゃないですか?「エレベスト」であってます? (2021年2月1日 17時) (レス) id: c10f97d942 (このIDを非表示/違反報告)
瑪瑙(プロフ) - サラさん» ドッキリをやる予定はありませんが、どこかで暴露はしたいなと考えています。今のところですが。ご感想ありがとうございました。 (2019年1月8日 18時) (レス) id: 2ce5584cfa (このIDを非表示/違反報告)
サラ - 瑪瑙さん» 別にドッキリとかそういうのじゃなくてマジ本気なやつ言ってます。 (2019年1月8日 11時) (レス) id: 48991e4e6a (このIDを非表示/違反報告)
瑪瑙(プロフ) - サラさん» その辺りも追々考えていこうと思っています。良い反応をしてくれそうですよね(^^) (2019年1月8日 9時) (レス) id: 2ce5584cfa (このIDを非表示/違反報告)
サラ - 瑪瑙さん» でも、女性だったって言ったら、王子たちの反応が楽しみで仕方ありません。 (2019年1月8日 0時) (レス) id: 48991e4e6a (このIDを非表示/違反報告)
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