＊ ページ3
「……別に、今更帰りたいだなんて駄々はこねませんよ。例え騙し討ちのような形だったとしても、先生の助手をやれというなら喜んでやらせていただきます。……どのみち帰るお金もありませんし」
開き直ったように顔を上げて膝の上の資料を片付け始める少年に、今度は向かい側から小さな溜め息が落ちる。
「少々強引な形となったことは申し訳ないと思っていますが、こうでもしないとあなたは動かなかったでしょう。まぁそれはともかくとして……いい加減、その格好やめませんか、シリルさん？」
呆れと諦めが半々に混ざった複雑な声音に、名を呼ばれた彼は顔を上げた。
宝石のように美しい目がきょとりと見開かれる。
「何か問題でも？」
「大有りですよ。一応あなた、女性なのですから」
その言葉に少年とも少女ともつかない不思議な容貌を持った少年――もとい、中性的な雰囲気の少女はどこか楽しげな顔で微笑んだ。
途端、近寄り難かった雰囲気がふわりと和らぎ、花のような華やかさを増す。
彼女は少年が着るような群青色の上着とズボンを纏い、堂々と胸を張る。
「大丈夫です。ずっとこの格好でいましたが、私が女であることを一発で見抜いたのは先生だけですから。ドレスなんて邪魔なだけです。慣れた格好が一番です」
「そういうことを言っているわけではないのですが……」
「それに、『立派な成人男性』が16歳の少女と一緒に行動しているだなんて、そちらの方がいろいろと問題ではありませんか？ ハイネ先生？」
目の前に座る小柄な、どの角度からどう見ても子どもにしか見えない人物――ハイネ・ヴィトゲンシュタインを見つめる彼女の言葉に、『立派な成人男性』である彼は溜め息を吐いた。
「……それもそうですが」
「ならばいいじゃないですか」
「ですが、他にやりようはいくらでもありますよ。他人が駄目なら、せめて従兄とか叔父とか……」
「この見た目じゃかなりの無理がありますよ」
肩から流れ落ちるように垂れている紫がかった銀髪を弄び、彼女は肩をすくめる。
淡く不思議な色合いのそれと鮮やかな赤茶色の髪とでは、血縁だとしても色彩に無理が出る。
妙に正論を突いている指摘にハイネが再び溜め息を吐いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 166人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
まぼぷりん。 - 22話、「気位エベレスト王子」じゃないですか？「エレベスト」であってます？ (2021年2月1日 17時) (
レス) id: c10f97d942 (このIDを非表示/違反報告)
瑪瑙(プロフ) - サラさん» ドッキリをやる予定はありませんが、どこかで暴露はしたいなと考えています。今のところですが。ご感想ありがとうございました。 (2019年1月8日 18時) (レス) id: 2ce5584cfa (このIDを非表示/違反報告)
サラ - 瑪瑙さん» 別にドッキリとかそういうのじゃなくてマジ本気なやつ言ってます。 (2019年1月8日 11時) (レス) id: 48991e4e6a (このIDを非表示/違反報告)
瑪瑙(プロフ) - サラさん» その辺りも追々考えていこうと思っています。良い反応をしてくれそうですよね(^^) (2019年1月8日 9時) (レス) id: 2ce5584cfa (このIDを非表示/違反報告)
サラ - 瑪瑙さん» でも、女性だったって言ったら、王子たちの反応が楽しみで仕方ありません。 (2019年1月8日 0時) (レス) id: 48991e4e6a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
