四ノ幕 ページ6
里とひとえに言えど、さほど大きな場所ではなかった。
それなりに人は住んでいるようだが、夜が近いためか人気はない。
途中で畑帰りらしい里人を捕まえて宿を尋ねれば、里に一つだけある宿の場所を教えてくれた。
見慣れぬ格好の二人に怪訝な顔をする男に礼を言い、紫月たちはその宿を訪ねる。
宿と呼ぶには小さい、中途半端な大きさの建物には女将らしき老婆が一人居た。
「宿をひとつ、頼みたいのですが」
薬売りがそう言えば、女将は二人の顔を交互に見る。
「あんたら夫婦かい? 部屋は一つでも……」
「構いません」
当たり前のように答える薬売りの背後で紫月が視線を落とす。
……宿を取る際、夫婦者として一部屋に泊まることが当たり前となっていた。
出逢った最初の頃は別々に部屋を取っていたのだが、それだと路銀がかさむ上、妙な顔をされることが多い。
夫婦でも恋仲でもない、未婚の男女の二人旅は何かと詮索の対象となる。
それならばいっそのこと、夫婦ということにしてしまえば良いのでは? と言い出したのは薬売りだった。
当初はひどく戸惑っていたが、同じ部屋であっても艶めいたことは何ひとつなく、むしろ女の一人旅よりも遥かに安全だった。
そう言う紫月に薬売りは困ったような腑に落ちないような、何とも言えない顔をしていた。
ゆえに、今更拒む理由もない。
通された部屋に腰を下ろし、荷を解く。
紫月は三味線を傍らに置いたまま、何とも無しに小窓の外を見つめていた。
藍色に沈んだ天が徐々に漆黒へと傾いてゆき、欠けた月が朧に輝いている。
その光景をぼんやりと見つめていれば、部屋の外から女将の声が聞こえた。
211人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
瑪瑙(プロフ) - ちびレトさん» ありがとうございます!物語もそろそろ佳境、楽しんで頂けたら幸いです(^^) 頑張ります! (2018年11月9日 21時) (レス) id: 2ce5584cfa (このIDを非表示/違反報告)
ちびレト - 更新待ってましたー!ヽ(*´∀`)いつも楽しくドキドキしながら読んでます♪♪ (2018年11月9日 18時) (レス) id: 4dbeda4f8f (このIDを非表示/違反報告)
瑪瑙(プロフ) - 栞さん» ありがとうございます!彼女自身、いろいろと感情が揺さぶられているようです…。今後もよろしくお願いします! (2018年10月10日 23時) (レス) id: 4aa70732e7 (このIDを非表示/違反報告)
栞(プロフ) - うわぁ...紫月さん可愛ええ...。いつも楽しく見てます… (2018年10月10日 22時) (レス) id: cbb68f3624 (このIDを非表示/違反報告)
瑪瑙(プロフ) - みづなさん» ありがとうございます!そう言って頂けると嬉しいです(^^) 亀更新ですが、これからもよろしくお願いします! (2018年9月12日 21時) (レス) id: 4aa70732e7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ