二十一ノ幕 ページ23
違和感が明確な現実味を帯び始めたのは、里に滞在してから数日が経った頃だった。
それは、違和感と言うよりは異変に近い。
むしろ、異常と称しても良い。
偶然で片付けるには、あまりに不自然すぎた。
それに気付いてから、紫月は部屋から出ることを拒むようになっていた。
部屋に唯一ある窓を締め切り、部屋の片隅に蹲り、ひたすら強く三味線を抱き締める。
まるで何かに怯えるように身体を縮こませているその姿は、嵐を前にして震える子どものようでもあった。
「――紫月さん」
密やかな声と共に、薬売りが紫月の傍らに膝を着く。
柔らかな声とは裏腹に有無を言わせない、されど決して乱暴ではない力で細い肩を抱き、白い頤に手を滑らせた。
そのまま上向かせれば、この数日ですっかり憔悴した面が現れる。
塞いだ窓から漏れる陽光と手燭に照られた顔を見つめ、薬売りは僅かに眉根を寄せた。
焦点が定まっていない瞳を間近で覗き込み、刻み込むように言葉を紡ぐ。
「紫月さん。食事を、持ってきましたよ。……食べないと、死んじまう」
唇が触れ合いそうな、ぎりぎりの距離。
睦言のようなそれは不思議な響きを伴い、形を留めずに落ちてゆく。
その声に紫月の瞳がかすかに揺れた。
ゆるゆると弱々しい光が灯り、虚だった眼差しがゆっくりと焦点を定める。
そして、どこかぼんやりとした瞳が目の前にある薬売りの顔を見た瞬間、今にも泣き出しそうに歪んだ。
「……く、すり、う……」
強張っていた全身から力が抜ける。
倒れようとする身体を支えると、この数日でひどくやつれた身体が小刻みに震える。
「紫月さん、食事を……いや、せめて、眠ってください。ずっと、眠っていないのでしょう?」
薬売りが震える紫月を抱き宥めるも、彼女は頑なに首を横に振った。
「嫌です……眠りたくない……眠ったら、夢が……あの、夢が……」
うわごとのような細い声が啜り泣きへと変わる。
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瑪瑙(プロフ) - ちびレトさん» ありがとうございます!物語もそろそろ佳境、楽しんで頂けたら幸いです(^^) 頑張ります! (2018年11月9日 21時) (レス) id: 2ce5584cfa (このIDを非表示/違反報告)
ちびレト - 更新待ってましたー!ヽ(*´∀`)いつも楽しくドキドキしながら読んでます♪♪ (2018年11月9日 18時) (レス) id: 4dbeda4f8f (このIDを非表示/違反報告)
瑪瑙(プロフ) - 栞さん» ありがとうございます!彼女自身、いろいろと感情が揺さぶられているようです…。今後もよろしくお願いします! (2018年10月10日 23時) (レス) id: 4aa70732e7 (このIDを非表示/違反報告)
栞(プロフ) - うわぁ...紫月さん可愛ええ...。いつも楽しく見てます… (2018年10月10日 22時) (レス) id: cbb68f3624 (このIDを非表示/違反報告)
瑪瑙(プロフ) - みづなさん» ありがとうございます!そう言って頂けると嬉しいです(^^) 亀更新ですが、これからもよろしくお願いします! (2018年9月12日 21時) (レス) id: 4aa70732e7 (このIDを非表示/違反報告)
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