十五ノ幕 ページ17
止める者はいなかったと聞く。
拒むには、あまりに多くのものを失い過ぎたのだ。
それから毎年、里の人間は川神に『人柱』を捧げるようになった。
川は相変わらず氾濫を繰り返したが、人々は川に唯一架かる橋と里の安寧を願い、『人柱』を立て続けた。
されど、いつしか川は水嵩を減らし、氾濫することもなく、やがてその因習も絶えたという。
以来、川神の御心を鎮めるため、あるいは人柱として捧げられた人々の魂を祀るため、河原には白い祠が建てられ、この話を今も事実として伝えているらしい。
――以上が、女将の語る昔語りであった。
「人、柱……」
呟いた言葉が他人の声のように聞こえた。
身体はここにあるはずなのに、意識が定まっていないような感覚。
呆然と呟く紫月に女将が痛ましげな表情で頷く。
「そうさ。今じゃ考えられないことだけどね……まったく。人間を埋めてどうにかなるんなら、生きてる人間はどうしろって言うんだか」
「今では、そのようなことは……」
「まさか! するはずがないさ。川の水は勢いこそあれ、少なくなる一方だし……第一、人柱にしていい人間なんざ一人もいないのさ。同じ里に住む家族だろう? その時の連中には、それがわからなかったんだろうよ」
渋い顔を見せる女将に礼を言い、紫月は再び一人となった部屋で思案に耽る。
とは言え、考えたところで答えが出るようなことでもない。
昨夜の夢も今日の話も、偶然と呼ぶには出来すぎているが、必然と呼ぶには足りないものが多い。
脳裏で繰り返される昔語りを反芻しながら手燭の火を見つめていれば、ふっと傍らに影が落ちた。
「……どう、しましたか?」
ゆったりとした声に視線を上げれば、いつの間にか、薬売りがそこに立っていた。
211人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
瑪瑙(プロフ) - ちびレトさん» ありがとうございます!物語もそろそろ佳境、楽しんで頂けたら幸いです(^^) 頑張ります! (2018年11月9日 21時) (レス) id: 2ce5584cfa (このIDを非表示/違反報告)
ちびレト - 更新待ってましたー!ヽ(*´∀`)いつも楽しくドキドキしながら読んでます♪♪ (2018年11月9日 18時) (レス) id: 4dbeda4f8f (このIDを非表示/違反報告)
瑪瑙(プロフ) - 栞さん» ありがとうございます!彼女自身、いろいろと感情が揺さぶられているようです…。今後もよろしくお願いします! (2018年10月10日 23時) (レス) id: 4aa70732e7 (このIDを非表示/違反報告)
栞(プロフ) - うわぁ...紫月さん可愛ええ...。いつも楽しく見てます… (2018年10月10日 22時) (レス) id: cbb68f3624 (このIDを非表示/違反報告)
瑪瑙(プロフ) - みづなさん» ありがとうございます!そう言って頂けると嬉しいです(^^) 亀更新ですが、これからもよろしくお願いします! (2018年9月12日 21時) (レス) id: 4aa70732e7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ