十ノ幕 ページ12
子どもたちは互いの顔を見つめてから、不思議そうに紫月を見上げた。
「もしかして……川神様のほこらのこと?」
「かわかみ……さま?」
「そう。たま川の近くにある、白い石のおやしろだよ。川神様をおまつりしているの」
「おいらたちの里を守ってくださる川の神様なんだよ。だけど、勝手に近付いちゃいけないって……川神様が怒るからって」
「雨の時期になると、時々お水が溢れて大変なの。だけど、お里は川神様が守ってくれてるの」
「川神様がいるから、ここは平和なんだよー」
子どもたちが口々に『川神様』について説明する。
この地におはす、川護りの神の話。
それを聞きながら、紫月は胸の奥がしんと冷えるような感覚に陥った。
胸の奥がざわめき、居ても立ってもいられなくなるような焦燥感に駆り立てられる。
血の気が失せた手を握り締めるも、どうしても震えが止まらない。止まってくれない。
蒼白な顔をし、呆然としている紫月の腕を不意に誰かが掴んだ。
はっと顔を上げれば、いつからそこに居たのか、こちらをじっと見つめる薬売りの姿。
瑠璃色に深い藍を流し込んだような複雑な色合いの眼差しは、相変わらず感情を読ませてくれず、恐ろしいまでに凪いでいた。
まるで宝石のように美しいのに、今だけはその静けさが恐ろしかった。
しばしの間、時が止まったかのように見つめあい、やがて薬売りが口を開く。
「……そろそろ、行きましょうか」
返事を待たず薬売りが紫月を促す。
混乱が収まらぬまま、彼女は辛うじて三味線を仕舞って子どもたちに手を振り、その場を後にした。
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瑪瑙(プロフ) - ちびレトさん» ありがとうございます!物語もそろそろ佳境、楽しんで頂けたら幸いです(^^) 頑張ります! (2018年11月9日 21時) (レス) id: 2ce5584cfa (このIDを非表示/違反報告)
ちびレト - 更新待ってましたー!ヽ(*´∀`)いつも楽しくドキドキしながら読んでます♪♪ (2018年11月9日 18時) (レス) id: 4dbeda4f8f (このIDを非表示/違反報告)
瑪瑙(プロフ) - 栞さん» ありがとうございます!彼女自身、いろいろと感情が揺さぶられているようです…。今後もよろしくお願いします! (2018年10月10日 23時) (レス) id: 4aa70732e7 (このIDを非表示/違反報告)
栞(プロフ) - うわぁ...紫月さん可愛ええ...。いつも楽しく見てます… (2018年10月10日 22時) (レス) id: cbb68f3624 (このIDを非表示/違反報告)
瑪瑙(プロフ) - みづなさん» ありがとうございます!そう言って頂けると嬉しいです(^^) 亀更新ですが、これからもよろしくお願いします! (2018年9月12日 21時) (レス) id: 4aa70732e7 (このIDを非表示/違反報告)
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