【オリジナル】花売り少女と時止めさんⅣ【名前変換可能】 (ページ10)

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　ただひたすらに、森の中を走っていた。森はごうごうと雄たけびをあげ、それに飲み込まれてしまうような気がする。
　足が悲鳴をあげてずきずきと痛む。今すぐにでも崩れ落ちてしまいそうなほどだ。けれど足を止めれば間違えなく殺されてしまうだろう。証拠として「魔女を逃がすな！」という男たちの怒号が背後から飛び交っているのだ。
　必死に目元から溢れる花弁を服のすそで拭った。花弁ははらはらと漆黒の世界へと舞い落ちる。どうすればいいのだろうか。どうすれば、普通に生きることができるのだろうか。
　一瞬、そちらに思考を運んでしまったのが悪かったのかもしれない。大きく反った木の根っこに足をとられて、前のめりに転倒してしまった。成すすべなくころころと草むらの上を転がる。もう、足も動かない。ごめんなさい、お父さん、お母さん。助けてくれたのに。ぐっと唇を噛み締めた。

　複数の足音が近づき、すぐに周りを囲まれたのが分かった。
　神様、どうか教えてください。一体、私が何をしたというのでしょう。視線を上げれば、男たちが銃口をこちらにいっせいに向けているのが分かった。そして、とある男が手を上に掲げ……振り下ろす。とっさに目を結んだ。その刹那、複数の銃声が森に響き渡った。

　痛くも、苦しくもない。ここが死後の世界なのだろうか。ふと、目を開く。しかし、そこは先ほどと何も変わらない場所だった。ただ、変わったことがある。男たちの手にあった銃はありえない形に捻じ曲がり、それを手にしていた男たちは腰を抜かしてその場に座り込んでいた。瞳孔が激しく揺れており、ひどく動揺していることが分かる。そして、変わったことがもうひとつ。

「うるさい。森が悲鳴をあげてると思ったら……なんだ、人様の縄張りで。これだから、古い風習やらに囚われてるやつらは嫌いなんだ」

間を置いて、淡々とした男の声が聞こえた。視線をそちらに向ければ、黒いローブを目深まで被った人物が、その場に立っている。その人物は、傍に来るとそっと私を抱えあげた。生憎私には抵抗する気力もなくすっぽりとその人物の腕に収まる。
　すると一人の男が、その人物に拳銃を向けた。どうやら隠し持っていたらしい。

「ば、化ケ物ぉぉお！」
「……」

周りが静止するように求める中、男はその人物に銃弾を放った。耳も痛くなるような、破裂音が再び響き渡る。