【オリジナル】花売り少女と時止めさんⅣ【名前変換可能】 (ページ9)

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幼い彼女の足で大の大人から逃れられるものだろうか。よほどの手を使わないと、難しい気がする。しかもどんくさいユーリだ尚更何故逃げられたのか不安である。
　それに一通りの家事は彼女はできる。今は自分がほとんどしているが、その点に関してもひっかかっていた。もしかしたら教会のほうで教えられたのかもしれない。けれど、そのわりにはやけに手がこんでたようにも思える。孤児を預かっているというと、ユーリだけではないはずだ。普通、時間のかかる料理よりも短い時間を選ぶはずだ。
　それに、あの味どこかで食べたことがある。どこだったかは明確に覚えてはいない、けど確かにその味には記憶があった。

「……ユーリ」

ルチルが声をかければ彼女は大きな目をぱちくりとさせ首をかしげた。

「お前、家事どこで覚えた」
「え……？うーん。言われてみると、どこで覚えたのかな」

人の記憶というものは、そういうものだろうか。あまりにも曖昧すぎる気がする。考えれば、考えるほど謎は深まるばかり。
　そんな考え込むルチルを彼女は不思議そうに覗き込んだ。

「ルチル、どうしたの？」
「いや、大したことじゃないんだが……ユーリの作る料理の味どこかで食べたことある気がする」

それにユーリはしばらく間を置いた後、あ！と手を叩いた。

「もしかして、どこかの地方料理とか？」
「……そうかもな」

それなら、確かに納得もいく。色々な場所を彷徨ってきたルチルはユーリのその答えを案外簡単に飲み込んだ。
　そしてユーリを抱えあげる。彼女はひあぁ！と甲高い悲鳴をあげて、ルチルにしがみついた。

「さて、寝るぞ」
「え？」
「お前、体の傷も体力もちゃんと戻ってないんだ。休め」
「え、え？ちょ、ちょっとまって！寝れないって、寝れないっていったのに！」
「寝ろ」
「やだ！」
「寝ろ」
「むり……です」
「……」
「……がんばって、寝てみ、る」
「それでいい。俺も傍にいてやるから」

彼女はルチルがそう言うと頬をすこし緩めて笑った。