【オリジナル】花売り少女と時止めさんⅣ【名前変換可能】 (ページ44)

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ノアールはローブを脱ぐと、トランクを魔方陣の中から取り出してルチルに寄った。

「……ルチル」

ノアールが名前を呼ぶと長い首が持ち上がり、どことなく不機嫌そうな赤と金色が向いた。
　ルチルの龍としての姿は案外ほっそりとしていた。というのもユーリが書物で見てきた挿絵にはもっとがっしりとした姿が描かれていたからだ。
　ノアールはルチルの鼻の上を撫でると相変わらず警戒心は強いかと、溜息を零した。
　そしてルチルの横腹を見る。

「……血は、止まってるか」

どうやら出血死の心配はないらしい。不機嫌そうにルチルはグルゥと歯を見せ、頭を地面の上に置いた。
　二人(？)の様子を黙って見つめていたユーリだったが、どうしてもじっとしている気にはなれない。

「あ、あの……ノアールさん」
「何」
「えっと、ルチル触っても大丈夫ですか？」
「さあな、本人に聞けばいい」
「えっと、ルチル……大丈夫？」

ユーリが問うとルチルは視線だけをこちらに向けたが、すぐに目を結んでしまった。何を伝えたいかいまいち分からないが、拒否はされていないような気がする。
　ユーリはそっとルチルに近づいて、頬あたりをそっと撫でる。触ってみると思っていたよりも銀色のうろこがつるつるしていて……何か不思議な感じだ。よく見ると頭の上に耳がついており、パタパタと動いている。近くには曲線を描いた角。結構長い。改めて観察すると本当にどんな動物とも似つかないなあ……とユーリは思った。

「しかし、驚いた」
「へ？」
「銀龍が人間に懐くなんてな。ああ、いや……ルチルは元々人間を好いてる方の龍ではあるが、ここまで心を開くのは珍しい」

それにユーリは首をかしげた。ノアールはルチルの傷を消毒しているのか、濡れた布で傷周りを拭いていた。

「銀龍は龍の中でも警戒心が強い種族でな。同属といえど、あまり心を許してくれない」
「え……銀龍って一匹だけじゃないんですか？」

ユーリは目を見開いた。てっきり銀龍というのはルチル一人だけだと思っていたのだ。それに、複数いるなら銀龍では見分けがつかないはずだと考えていたこともあった。

「今は確かにルチルだけだ。昔は百近くいたと思うぞ。まあ、龍自体自然界の生物の中ではほぼ最強の種族だから、元々個体数は多くはなかったが」

ノアールはてきぱきと手を動かしながら、そう答えた。