【オリジナル】花売り少女と時止めさんⅣ【名前変換可能】 (ページ41)

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ユーリは震えた声でルチルの名前を呼んだ。けれどその黄金の瞳は相変わらず焦点が合うことはなく、それにユーリは泣きそうになった。
　後ろではノアールが淡々と数を数えている。あと、5秒。頬を叩いてみるも反応はなく、ユーリは頭が真っ白になっていく感覚を覚えた。

「ユーリ、もういい！戻って来い」

ノアールのそんな声が聞こえた。駄目だ、駄目だ……今、戻ったら、私の手を握ってくれる、笑ってくれるこの人はいなくなってしまう。ユーリはそんなことを考えた。残り2秒。
　ああ、もう、どうにでもなってしまえ！その瞬間、額にすさまじい激痛が走り、ユーリの記憶はわずかながらだが途切れた。

「……ユーリ、ユーリ」

　よく見知った声が聞こえてユーリは顔を上げた。そこには顔を歪めながらも苦笑いを浮かべるルチルの姿があった。ユーリはそれに大きく目を輝かせた。

「あ……あ……ルチル、うわ、あああぁあぁ……」
「……驚いたな、止め方に」

すると、コツコツと靴を鳴らしてローブを揺らしノアールが近づいてきた。ルチルはノアールを見てわずかに目を見開いた後、ふいっと顔を反らす。
　ノアールはそれに目を細めたが、かがんでユーリの頭を優しく撫でた。

「……まさか頭突きで、止めるとはな」
「……へ？」

ユーリは首をかしげた。確かに額はまだじんじんと痛むが……どうも、混乱して無鉄砲な行動をとったらしく、ルチルに頭突きしたらしい。
　ノアールはわずかだが、口角を上げた。ユーリはそれに目を丸める。
　あ、この人も笑うのか。当然といえば当然である。しかし、ノアールはいまいち表情が読めず、何を考えているか分からない面が多い。けれど、それも今思うと彼の瞳が黒く瞳孔が見えづらい。そのうえ、表情の差分が少ないのが原因なのかもしれないとユーリはふと思った。

「とりあえず、ルチル。止血をするから、少し待ってろ」
「……」
「ドラン！」

ノアールが声を張り上げると、ドランが路地裏からひょっこり顔を出した。

「残りの指揮を頼む」
「了解。貴方ほどの適切なものが出せるかは分からないが、善処する」
「大丈夫だ。お前は冷静だから。敵兵を一掃次第、町民はイリスの方へ移動しろ。手配は整ってるから、イリスに無事連れて行ったら残りの対応は他の奴らに任せればいい」
「分かった」

ドランはノアールの指示に首を縦に振った。