【オリジナル】花売り少女と時止めさんⅣ【名前変換可能】 (ページ38)

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ノアールもそれに気付いたのか、わずかに眉根をひそめたがすぐに視線をルチルの方へと戻した。今、優先すべき順序はあちららしい。

「ルシファー。周りの敵兵を散らせ」
「えー？まーた？」
「……龍王からの許可は得た。生死は問わん」
「……なら、ひきうけよーかな。建物は？」
「出来る限り控えてくれ、だそうだ」
「頑張ってみるよ。ノアールくんは？」

ルシファーの問いにノアールは間を置いた。

「ルチルの魔力を止める」

それにルシファーは眉根を細めた。魔力の放出を止めるためには本人の意識が戻る必要がある。現に銃弾で撃たれたのに止まってないのだ。それどころか、強力になっている気さえする。
　彼なりの考えがあるのだろうが、ルシファーはどこか不安を覚えた。けれど、言い返したところでノアールは簡単に考えを曲げないことはよく知っている。
　いったんだから、絶対だからね！ルシファーはそう言うと羽を大きく広げて空に飛び上がった。

　ユーリは肩を揺さぶられて、我に返った。と言っても、ショックのあまり頭はうまく回っていないし、状況なんてものはそんなんじゃあ当然つかめているはずもない。
　ルチルが……ルチルが……撃たれて。

「……ルチルを助けたいならちゃんとしっかり自分を持て。人を助けるのは、自分の意志が強くない人間にはできないぞ」

知らないはずなのに、懐かしい声が聞こえてユーリは顔を上げた。そしてこちらをただじっと見つめる黒真珠の瞳に息を飲んだ。
　その黒真珠の瞳の持ち主がノアールだということはすぐに検討がついた。それと同時にこの人が夢に出てきたあの人物だと言うこともすぐに分かった。

「あ、え」
「……あのまま、もうしばらく放っておけば、間違えなく死ぬ」

戸惑うユーリをよそにノアールは淡々とそう告げた。その“死ぬ”という言葉にユーリは思わず身を強張らせる。
　ああ、本当に死んじゃうの？

「ど、どうすれば」
「ルチルは今、自我を失ってる。俺たちにとって自我っていうのは魔力を制御するために必要なものなんだ。けど、自我が切れると魔力を制御も当然切れる。
　ルチルは今、見てのとおりその自我……魔力を制御するための糸が切れてる。止めるためにはなんろかして結んでやらなければいけない。つまり、自我を取り戻させるのが唯一の手段」

糸を、結ぶ。
　どうやったら彼の自我を取り戻せるのだろう。